Stage 15 : サファリゾーンの熱血漢


 ヒロトが次に出したポケモンはワカシャモだった。ノーマルタイプに有利な格闘タイプであったからもう少し後出ししようとも思ったのだが、とにかくケッキングにダメージを与えることが先決だと考えたのだ。
「“にどげり”!」
 果たして、ワカシャモはケッキングより早く動き、二蹴りあびせた。しかしケッキングに動く気配がない。
「ん……?」
 ヒロトもワカシャモも警戒をとかずにいると、ラナンが豪快に笑い出した。
「あっはは、ケッキングの特性は“なまけ”! 二ターンに一度しか攻撃できないんだよ」
 ……なんてポケモンだ。ヒロトはただ驚き呆れるばかりだった。
 しかし、これは明らかな弱点だ。“なまけ”のターンでどうにかするしかないのか、とヒロトは考える。
「それじゃ、もう一度にどげ……」
「“ギガインパクト”」
 ラナンは低く言い放った。途端、とてつもない衝撃がフィールドを襲った。
「くっ……!」
 衝撃が去った後、中央で見えたのは、倒れたワカシャモと、攻撃の反動に抗って寝転ぶケッキングだった。
「ワカシャモ、戦闘不能。ケッキングの勝ち」
 ヒロトは絶句した。たとえ二ターンに一度しか攻撃ができないとしても、勝機はないように思えた。
「ケッキング、二度蹴りで受けたダメージはどうだ?」
「……」
 ラナンが話しかけても、ケッキングは返事をしない。
「まあ、そもそも“ギガインパクト”って技は、攻撃後の負担が大きすぎて二ターンに一度しか攻撃できないんだけど。だからケッキングに返事をする余裕がなくても仕方ない。こいつにはぴったりな技だけどな」
 このポケモンにこの技あり、ケッキングは反動のせいで随分と動きにくそうだった。
 もうワカシャモもいない。このケッキングに致命的ダメージを与えられるポケモンは、現状ヒロトのメンバーにはいないのだ。
「……こうなったら……クサイハナ!」
 逆境であったが、クサイハナは元気に飛び出した。ジムの中とはいえ、熱帯雨林気候の湿気が、クサイハナを活発にさせる。
「力を貸してくれ」
 結局、心を通わすには、バトルが一番だから。
 ヒロトの気持ちを知って、クサイハナはうなずいた。
「それじゃまずは……“しびれごな”!」
「っと、そうきたか」
 ケッキングが動けないうちに、クサイハナは確実に粉を飛ばした。反動で動けないケッキングを、さらに痺れが襲う。
「そして“メガドレイン”!」
 相手の体力を吸い取る技を、クサイハナは思い切りぶつける。相手が麻痺状態になったことで、そのターンはクサイハナが先手をとれた。
「……わかってんだろ」
 ギガインパクト、その技にはかなわない。
 反動の強い技とはいえ、ケッキングとの相性は良い技だ。ラナンは何のためらいもなく、再びその技を指示した。
 そして、またあの衝撃が襲い、その後の風景も同じだ。
「クサイハナ、戦闘不能。ケッキングの勝ち」
 クサイハナの攻撃力では敵わないとわかっておきながらの展開は、確実にヒロトの心を傷めた。
「クサイハナ」
 ヒロトはクサイハナに歩み寄る。クサイハナは、花の先についた粉を指し、苦く笑った。
「そうだ、お前はケッキングを麻痺させてくれた」
 前回のホウソノジムでの戦いでも、クサイハナはすぐにやられてしまった。それでも、今回もしっかりフィールドに出て、今出来る役割を果たしてくれたのだ。
 ありがとう、と言って、ヒロトはクサイハナをボールに戻す。そして、最後のボールを持って、言った。
「僕が持つポケモンはあと二匹です。でも……次で勝つ!」
 ヒロトの言葉に、それまで笑っていたラナンも、引き締まった表情を見せた。

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