Stage 2 : ユート団の影


 己の敗北に呆然としている間に、少年はヒロトの視界から消えていた。
 アチャモを回復させようとポケモンセンターへ戻ろうとすると、足下に何か光るものが見えた。
 それは、先ほどの少年の顔が印刷されたカードだった。ヒロトは力なくそれを拾う。トレーナーカードだろうか。
 とりあえず、先にアチャモを回復させようと、ヒロトは踵を返した。

 アチャモはすっかり元気になった。ヒロトも、しばらくは落ち込んでいたが、アチャモの笑顔と拾い物への興味で、心のもやもかなり薄れていた。
 郊外のベンチで、カードを隅々まで見る。これは"Team UTO Membership"で、UTOという団体の会員証とトレーナーカードを兼ねているようだ。
 そこには、彼の名前らしきものも記されていた。
「フミヤ。あいつ、フミヤっていうのか……」

「あっヒロトみっけ! 先についてたんだ」
 急に視界が暗くなったと思いきや、ミズホだった。ヒロトは慌てて、カードをポケットにしまった。
「えっ、見せられないものなの?」
 そう言われて、ヒロトは警戒をゆるめた。彼はミズゴロウを盗んだトレーナーなのだから、ミズホにも情報提供はしておいた方がいい。そう思って、ポケットからカードを取り出した。
「こいつ。ミズゴロウ盗んだ奴」
「えっ? こんなの、どうしたの?」
「バトルに負けた。ボロ負け。そんで、これは拾った」
「嘘っ」
「嘘言うかよこんなところで……」
 ミズホはヒロトの手からカードを取って、少年フミヤの写真を眺める。
 右が長いアシンメトリーの紫の髪。なかなか強烈な見た目だ。
「よし、覚えた! これ、博士にも言った方がいいんじゃ」
「や、しばらくは言わない」
「何で?」
「カード取られちまうかもしれねーから。これはオレが持っときたい。絶対、オレが倒してやる……」
「そう……」
 ミズホは、半ばヒロトに気圧されたためか、何も言わなかった。

 ルート2に着いた。遠くに、クダイシティに続くトンネル、クダイチューブが見える。
 ヒロトは前進していると、こちらをじっと見つめてくる短パンの少年を見つけ、そちらを向いた。
「よし! 視線があったからバトル!」
「オッケー! っていうか、君、オレ見すぎでしょ」
 少年はジグザグマを出した。ヒロトは、もちろんアチャモだ。

「参りました!」
「君のジグザグマも強かったよ」
 なんとかジグザグマに勝利することができ、ヒロトもアチャモも、完全に調子を取り戻した。
「これ、賞金。少ないけど」
 ヒロトははじめての賞金を受け取った。
 さて、クダイチューブに向かおう……と、体を東に向けた時、一羽のスバメが、ものすごい勢いでチューブから出てきた。
「うわぁっ!」
「……ぴろっ!」
 スバメはヒロトの声を聞くと、ヒロトの影に隠れ、身体を震わせた。
「どうしたのスバメ?」
「ぴろろ〜……」
 それを見た短パンの少年は、またか、と言ってため息をついた。
「また?」
「ああ。最近、チューブの中で何かあるみたいでさ……オイラもオイラの仲間も、皆怖がって入ってかないけど」
「えっ……でも、オレ旅してるし、あそこ通らないとならないんだけど」
 そう言うと、スバメは涙目でヒロトを見つめてきた。
「これは……オレが入るってことなのか?」
「そうみたいだな!」
「随分と明るそうに……」
「んー、だって、オイラジグザグマが心配だし」
「そっか。んじゃ、バイバイ。ポケモンバトル、楽しかったぜ!」
 怯えるスバメを励ましつつ、ヒロトはクダイチューブに向かった。

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