Stage 2 : ユート団の影


「……ありがとう、助かったよ」
 眼鏡の青年はヒロトに言った。
「あとはこのダンゴロたちだ」
 青年は、水色とピンク色でデザインされたモンスターボールを、青年に近い側にいたダンゴロに投げた。
 さきの戦闘で弱っていたダンゴロは、おとなしくボールにおさまった。
「次は君が」
 そう言って青年は、ヒロトにボールを渡した。ヒロトは目を丸くする。
「とりあえず、もう一匹のダンゴロを。頼みたいことがあるんだ」
 ダンゴロを捕まえることが頼みごとではないのかと、ヒロトは疑問に思ったが、目の前で弱っているダンゴロを少しでも楽にしてやりたいという気持ちが先立った。
 はじめてヒロトは野生のポケモンにボールを投げ、ダンゴロをボールにおさめた。
「それはヒールボール。捕まえるとすぐ元気になる」
「よ、よかった……えーと、それで、あなたは……」
「ヤエキタウンのカラジ。君はヒロト君だね? 話は聞いている」
「えっ、確かに僕はヒロトですけど、何で」
「ポケモン図鑑を持っていたから、すぐわかったよ」
「あっそうでしたか。それで、訊きたいことが山ほどあるんですけど」
「わかってる。僕はこのままヤエキに戻るつもりだったんだけど、一度クダイに引き返すことにするよ。そっちの方がポケモンセンターに近いからね」

 チューブを進んだところに、大きなスーツケースがあった。カラジは、それにあの重い機械をおさめる。
 もう既に出口は見えていた。

「さて、ついた。クダイシティは商業の町。いつも賑やかさ」
 ヒロトはあたりを見回した。すぐ前の噴水広場では大道芸人たちがストリートパフォーマンスをしており、奥にはレトロな商店街が広がっている。
「クダイシティにいらっしゃい! って、おっちゃんさっきもいなかったっけ?」
「おっちゃんってねぇ。いろいろあってね」
 近くの陽気な大道芸人に手を振って、一行はポケモンセンターに向かった。
 お互いのポケモンを回復させるついでに話そうと、館内のソファに腰掛けた。
「では、まずはユート団のことから。あいつらは、サクハのポケモンたちの生態系をかえて、“強い地方”を造りだそうとしている、とんでもない連中さ」
「生態系を?」
「そう。さっきのダンゴロはイッシュ地方出身だ。ああやって、別の地方の強いポケモンをサクハの野生に逃がして、サクハ固有の生態系を潰そうとしている。君ぐらいの年齢なら、“強い地方”という響きは魅力的に聞こえるかもしれない。でも、魅力的でもなんでもない。わかるかな」
「うーん、何となく」
「今は何となくでいい。でも、あの極悪非道な連中を野放しにしておくわけにはいけない。そこで、サクハを旅する君とミズホちゃんにも協力を要請したいんだ」
「協力……具体的には、どうすれば?」
「僕と師匠が共同開発した“外来種保護マシン”はまだ未完成だ。本当はあれを君たちに渡そうと思ったんだけど、あんな重たいもの、まだまだ実用化なんてできない。だから、まだ様子を見るだけでいい」
 ヒロトはスーツケースを見た。あの機械がそれなのだろう。そして、誠実な青年に向き直った。
「ユート団が来たらやっつけますよ! 正直、オレも強いポケモンには惹かれますけど、あんなやり方は認められません。それにオレにも、ある人に借りがあるんで」
「頼もしいな。あのマシンが完成したら、君たちにも使ってもらいたい。とりあえず、今はこれで」
 そう言って、カラジはヒロトにモンスターボールを渡した。さっきのヒールボールとは違い、普通のデザインだ。
「好きに使いな。さっきのダンゴロのお礼。ダンゴロは、健康診断をして、里親を探すかイッシュにかえすよ」
「ありがとうございます!」

 ポケモンセンターを出て、スーツケースをずるずる引くカラジを見送った。後ろからドンメルがのこのこついていく。
 商店街を歩いてみようと振り返ると、背後から、弱虫だったあいつの鳴き声が聞こえてきた。
「ぴろっぴろ!」
「スバメ! どうしたんだよ」
「ぴろっぴろっぴろーん!」
 スバメはヒロトの肩の上にとまり、頬ずりした。
「もしかして……一緒に来てくれるのか?」
「ぴろーん!」
 ヒロトは早速、カラジから貰ったモンスターボールを取り出し、スバメに向けた。
「いくぞ」
 それから大きく振りかぶってモンスターボールを投げ、ボールの揺れが止まるのを待った。
 ボールはパチンと合図した。
「やった!! 新しい仲間だー!」
 仲間がアチャモとスバメになったところで、ヒロトはクダイシティの中心部に向かっていった。

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