Stage 3 : クダイシティのスタンプラリー!


 商店街の東に、一台のワゴンがあった。エメラルドグリーンと白で彩られたワゴンで、最近塗装し直した跡がある。これこそがラムネ屋サンパワーだ。
「いらっしゃい。飲んでいくかい? ポケモンも人間も飲めるぞ」
「あ、いえ。これを」
 ヒロトが首からさげているスタンプカードを差し出すまでもなく、店主は、ワゴンの中からいくつかの瓶を出した。
「それじゃあクイズだ! クダイラムネは、ポケモンに飲ませると体力を少しだけ回復させるとともに、ある状態異常を治す効果がある。それは?」
「えっ……正直、ノーアイディアです」
「そりゃそうだろう。ラリー参加期間中は、効果は何か看板に書いてないし、住民にも教えてあげないよう言ってあるからねー」
 そう呑気に言う店主にヒロトは呆れつつも、瓶のうちのひとつを手に取った。
「それはポケモン用だから、飲んじゃだめだぞ。ポケモンが飲んで、判断するんだ」
 瓶を少し振ってみると、中に入っているビー玉が涼しげな音を立てる。
「よし、頼む」
 ヒロトは、アチャモとスバメをボールから出した。
「可愛いポケモンたちだなー。さて、わかるかな?」
 店主は、底の浅いボウルにラムネを注いだ。そして、さあ飲んでみろ、おいしいぞと、アチャモたちに勧める。
「……どうだ?」
「チャモー」
「ぴろっ」
 二匹とも、嫌いではないが特に好きでもない、という感じであった。
「うーん……これじゃどうにも。何かヒントとかありませんか?」
「ヒントか。そうだなー、特別だぞ。このラムネは木の実から作られている。トレーナーなら誰でも持っているような木の実からね」
 そう言われて、ヒロトは木の実袋を取り出した。
「クラボ、カゴ、モモン、チーゴ、ナナシ、オレン、キー……僕が持ってるのはこのくらいで」
「充分だ」
 ヒロトは、自分の持っている木の実とラムネを見比べる。だが、ラムネなんてどれも同じような色で、たまに買ってもらえる市販のラムネと変わらないように見える。
 それから、ポケモンたちに目をやった。アチャモもスバメも、ラリーで大変な思いをしてきたのに、さっきより少し元気だ。
「体力を少しだけ回復、っていうのは、オレンですね」
「そう! このラムネは、普通のラムネの材料にオレンと、あともう一つの木の実を少しだけ混ぜて作ったものだ。さて、もう一つ、わかるかな?」
 ポケモンの見た目でわかるのはせいぜいオレンまで。状態異常にはなっていないのだから、ラムネは体力の回復のみをもたらす。
 ヒロトはもう一度、ポケモンを見た。
「……あ」
 そう言えば、と、ヒロトは木の実袋の外ポケットに入れてあるメモ帳を取り出した。
 木の実の味や効果の書かれたタグを貼り付けるために用意したものだ。
「これだ!」
「よし、言ってみろ」
「もう一つの木の実は、クラボ! このラムネは、ポケモンの体力を少し回復させたうえで、“まひ”状態も治すんですね」
「大正解! なんでわかったのかい?」
 店主はスタンプ台にスタンプを乗せた。ヒロトはスタンプカードを渡す。
「僕のアチャモは“うっかりや”な性格で、スバメは“せっかち”な性格です。その二匹が、ラムネを飲んだ時、特別美味しそうでもまずそうでもなかった。この二匹がともにそう感じるのは、“からい”味だけなんです」
「なるほどな、運もあった、ってことだな」
「まあ、そうなりますね」
 ヒロトはスタンプカードを受け取った。端が少しかすれていたヘイガニのスタンプは、ヒロトにウインクを送っていた。

 商店街の西側入り口にはやはりニッチが立っており、行き交うトレーナーにラリーへの参加を勧めていた。ヒロトは彼にしっかりカードを見せた。
「君、スタンプ集めちゃったんだな! 約束どおり、豪華しょうひーん! あげるんだな!」
「クリッポ! ホウソノシティの会社が開発した、スーパーミラクルウルトラすんばらしいツールだな!」
 ニッチは、クリッポと呼ばれた小さな万歩計のようなものを、ヒロトの服のポケットにつけた。
「これがあれば、トレーナーと電話ができたり、訪れた土地をチェックできたり、とにかく便利なんだな! あっ、ホウソノシティに行けばもっと色々なアプリをもらえるかも、ネ!」
「すごい……ラリーでこんな豪華商品が」
「そっそ! トレーナーさんにいーっぱい持ってほしいからね。それつけて、ばりばり宣伝よろしくなんだな!」
「ありがとうございます! ラリー、面白かったですよ!」

 ヒロトは早速、母とシヨウカ博士の番号を登録した。

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