Stage 4 : コモルーとクロモジ道場


 クリッポを手に入れたところで、ヒロトはこの町でのメインイベントを思い出した。
 ここクダイシティには、ジムがある。ポケモンリーグに挑戦してサクハのチャンピオンとなるには、サクハ地方各地にある八箇所のジムを守るジムリーダーに勝たなくてはならない。
 クダイジムは、商店街から、わりと広めの専用通路から繋がっていた。

 “クダイシティ ジムリーダー・シャクナ フレッシュ アッパーガール”

 そんな看板が見えて、ヒロトはドアノブを引っ張った。だが、鍵がかかっているらしく、ジムは開かない。
「あの、あのー!」
 ヒロトはジムリーダーを呼ぶが、返事はない。どうやら留守のようだ。
「留守か……いつバトルできるんだろう」
「あー、シャクナちゃんねえ、今はここから北東にあるクロモジ道場にいるんじゃないかなあ」
 この道は通らないはずの商人が、ヒロトにそう声をかけた。
「どういうことですか?」
「クロモジ道場は、シャクナちゃんのパパさんがしてるからあ。シャクナちゃんの弟子まで、普段はあっちにいるんだよお。まあ、行ってみたらわかるさ」
「なるほど、そうなんですか。わざわざありがとうございます」
 その商人は、ヒロトに微笑みかけた。ヒロトが微笑を返したその時、彼が持っていた、“おいしいシッポ”と書かれたダンボール箱が、妙に脳裏に焼きついた。

 商店街と住宅地を抜け、ジムより明らかに立派な道場が見え始めたところで、左手の池の水音が耳に障り、ヒロトはそちらを向いた。
 池では、白く丸いポケモン――コモルーが必死でもがいていた。
「お、溺れてるのか!?」
 ヒロトは、そのまま池に入った。
 足がつくぎりぎりのところで、コモルーを掴み、引っ張る。だが、コモルーは思った以上に重く、少しでも力を抜くとこちらが引っ張られそうだった。
「くっ……」
 歯を食いしばる。コモルーは深く息を吸って、沈むまいとしている。
 そんな時、背後から聞きなれた声がした。
「キャモメ! お願いっ!」
 ミズホだ、とヒロトはこの状況でもすぐにわかった。
 ボールの音がして、キャモメがヒロトの視界に入る。キャモメは池に波を起こし、ミズホはヒロトの腰を引っ張った。
 そして、少しずつ、少しずつコモルーは岸に近づき、何とか助けることができた。
「ゼェ、ゼェ……ありがとな、ミズホ。ナイスタイミングだったぜ」
「よかった。でもなんで、こんなところにコモルーが……あっ」
 息を整えている間、コモルーは二人のことをじっと見て、どこかへ行ってしまった。
「……?」

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