ヒロトとミズホは、道場に至るまでの会話で、お互い同じ理由でクロモジ道場に来たということがわかった。
道場は、パッと見では四、五階建てで、昔の建築様式だ。
入り口前には、二人の門番が立っていた。二人とも空手衣を着ていて、マクノシタを連れている。
「むっ! 挑戦者か? 名は」
「ハツガタウンのミズホです」
「同じく、ヒロトです。僕たち、クダイシティのジムリーダー、シャクナさんにバトルを申し込もうと……」
「心得た。私はクニヒト!」
「そして私はクニタチだ。ちょうど二対二、ここらでバトルとでもいこうじゃないか」
マクノシタたちが、門番二人の前に立った。
「えっ、だから僕たち、ジムリーダーを」
「それはわかっている! だが、道場の者をろくに倒しもせず、ジムリーダーに挑戦できると思うな!」
そう言われ、ヒロトとミズホもボールを取り出した。
炎天下の中、二対二のマルチバトルと呼ばれるルールで、試合開始した。
「ゆけっ、スバメ!」
「いくわよっ、キモリ!」
「って、キモリ? なんでキャモメじゃねーの?」
「いいでしょ、キモリのほうがレベル高いんだから!」
二人のやりとりを、門番二人は黙って聞いていた。
「まあいい、いくぞスバメ、“電光石火”!」
スバメはクニヒトのマクノシタに向かって突進する。マクノシタは動かない。
「……“あてみなげ”」
マクノシタは、スバメを頭から掴み、思いっきり投げた。
「ス、スバメ!」
「ちゅん……」
“あてみなげ”は、後攻になるが、必ず命中する技である。スバメはいきなり、ダメージをくらってしまった。
「キ、キモリ……ここは慎重に」
「“猫だまし”!」
クニタチのマクノシタは、キモリの前で両手を強く打ちつけた。キモリは怯む。
「キモリッ!」
キモリは体勢を立て直した。
「……まだいける?」
「キャモ!」
キモリは元気よく返事した。
それを見て、ヒロトはミズホに耳打ちする。
「よし、キモリで時間を稼いでくれ。スバメの技でなんとかする」
「はぁ?」
「頼む」
「……」
ミズホが乗り気ではないことはヒロトから見ても明らかであったが、それでもミズホはキモリに指示した。
「キモリ、ひたすら走って」
「キャモー!」
キモリは、得意になって走り出した。マクノシタが追いかけるが、どうしてもキモリとマクノシタの間には素早さに差がある。
「ふりむいて、」
バトルフィールドの端っこで、キモリがくるり振り向く。マクノシタは、チャンスだと言わんばかりにキモリに向かう。
「“睨みつける”!」
「なんの! マクノシタ、“突っ張り”だ!」
クニタチのマクノシタは、そのままキモリに向かい続け、得意の格闘技を見せた。
突っ張りは、四回当たった。
「よし、ではこちらも“突っ張り”だ!」
クニヒトのマクノシタもそれに続く。
「キャ、キャモー」
キモリは攻撃に耐えられず、倒れてしまった。
「キモリ!」
バトル中はフィールドに入ることは許されない。ミズホは、キモリをボールに入れた。
「ゆっくり休んでね」
「さて、あとは坊主か。どうくるか?」
「……よし、スバメ! 今のお前ならいける」
「ちゅんっ!」
スバメは、二匹のマクノシタのもとへと飛ぶ。
「散れ、マクノシタ!」
そう言われ、マクノシタは左右に逃げた。
「それなら右から! “翼でうつ”!」
スバメは軌道変更し、散るマクノシタたちを一直線で狙えるところについた。
そして、右翼に力を入れ、マクノシタたちの間を飛んで抜けた。
「ヘアー……」
マクノシタたちは、前のめりに倒れた。
「なっ……」
スバメは、ヒロトのもとへ戻る。ヒロトはスバメを抱きしめ、頭をおもいっきり撫でた。
「キモリに気をとられてる時に、思いっきり“気合だめ”しといたからなぁ! キモリが“睨みつける”でマクノシタたちの防御を下げといてくれて助かったぜ」
「むう。では、そちらの勝ちだ。道場に入ってからも、たくさんのバトルが待ち受けている。心して進むように」
「はいっ」
お互いポケモンを回復させてから、少年少女は、“クロモジ道場”という渋い筆文字の下を通った。
「負けてからこんなこと言うと負け惜しみにしか聞こえないかもしれないが、正直、あの子らのダブルバトルはそれほど良いものではなかったな」
「そうだな。お互いが見えていないというか」
「まあ、初心者のようだしな」
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