Stage 4 : コモルーとクロモジ道場


 鳥ポケモン同士のバトルは、ミズホのキャモメが先攻した。
「“水鉄砲”。翼を狙って!」
 スバメは避けようとしたが、右翼に水が降りかかり、思わずもたついた。
 その後もスバメはどうも飛びにくいようで、身が右側に傾いてしまう。
「スバメ!」
「成功。そんなずぶ濡れの羽じゃ上手く飛べないだろうし、得意技も出せないでしょう」
 スバメは一度着地し、右翼の水を出来るだけ振り払った。だが、やはりまだ重みが残る。空中戦を続けるのは難しいだろう。
「よし、それじゃ、“電光石火”だ!」
 スバメは助走し、飛び上がる。そのまま一直線に向かうと思いきや、重みから右に旋回し、あまり大きなダメージを与えることはできなかった。キャモメの目が笑う。
「“超音波”!」
 これはきれいにヒットした。スバメは超音波を真正面で受け、混乱状態に陥る。さらに足取りは重くなり、もはや勝機が見えないといった様子だった。
「ス、スバメ……」
 ヒロトは困惑する。こんな時こそトレーナーはしっかりしなければならないと思い直し、スバメを食い入るように見た。混乱していても、やはり右旋回は変わらない。
 そこでヒロトはあることに気がつき、目を見開いた。
「ふふっ、順調ね。キャモメ、“翼で撃つ”!」
 キャモメは翼を真っ直ぐに広げ、まず勢いよく攻撃するために、スバメから離れた。そしてスバメに迫る。
「チュチュンッ!」
「ス……」
「よし、もう一発」
 またキャモメはスバメから離れる。その時、スバメの足取りに迷いが無くなった。混乱がとけたのだ。
「よし、スバメ、“電光石火”でキャモメを受け止めろ!」
 ミズホが驚きの表情を浮かべる。スバメはキャモメに背中を向けたまま動かず、ぎりぎりまで引き付けたところで、右翼を軸に一気に振り返った。
 強靭な左翼の攻撃がキャモメを襲った。顔面に技をくらったキャモメは怯んでしまった。
「よしっ! ……あれ」
 キャモメももう飛ぶ気力がないようだが、スバメも倒れる。引き分けだ。
「試合終了。結果、引き分け!」
「そんな……でも、よくやったよ、ゆっくり休んでくれ」
 ヒロトもミズホも、しっかりと戦ったポケモンを賞賛し、ボールに戻した。

 その場には、もうシャクナはいなかった。
「あ、あれ、シャクナさんは」
「ああ、シャクナなら、イメージが湧いてきたから先に戻って対策を立てておくと言って、ここを出たぞ。ジムに行けば、会えるだろう。それよりも、少年たちのバトル! なかなか見ものだったぞ。水の重みを逆に利用するとはたまげた。いつかまた、バトルをしてみたいものだ」
「ありがとうございます!」
 ヒロトとミズホは、異口同音にお礼を言った。

 道場は一緒に出たが、ミズホはクダイシティでもっとやりたいことがあるらしく、二人が再会した池でまた別れようとしたその時だった。
 ヒロトがミズホに見せたカードに載っていた少年がその場にいたのだ。ヒロトは追いかけようとしたが、池でミズゴロウと戯れているフミヤが垣間見せた笑顔を見て、その気を無くしてしまった。
 さらに、ミズゴロウはフミヤの笑顔に応えてみせる。そこにいたのは、絆を深めたポケモンとトレーナー、そのものであった。
「ひどい奴だって思ってたのに……それにミズゴロウだって。なんかもう、昔のミズゴロウじゃないみたい」
 ミズホは力なく言った。フミヤはミズゴロウをボールに戻し、南へ去った。
 ヒロトも、憂いを含んだ表情でフミヤを見つめる。沈黙を破ったのは、意外にも、ヒロトが腰につけていたモンスターボールであった。
「ア、アチャモ?」
 指一本で開閉スイッチを押す。勢いよくアチャモが出てくると、二人を励ますようにとびはねる。
「僕たちも頑張ろう、って言ってるのか?」
「アッチャー!」
 その通りだと言うように、アチャモは胸を張った。
「……そうだよな、まずはクダイジム制覇だ!」
「ありがとうアチャモ、私もキモリと頑張るよ!」
 ミズホは先にクダイシティに急ぐ。アチャモはミズホに、ウインクを送った。

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