Stage 5 : リーグ制覇のスタートライン


「ねこだまし!」
 マクノシタは、シャクナが技名を言い終わる前には既に反応し、アチャモの前で両手を打ち付けた。
「ア、アチャ!?」
「びっくりしたでしょ。普段から瞬発力はしっかり鍛えてるからね!」
「くっそー。アチャモ、“つつく”!」
 アチャモが怯みから立ち直っても、マクノシタの攻撃が連続することはなかった。これはチャンスだと、アチャモはマクノシタに攻撃した。
「はじめ怯ませたところで、連続攻撃しないと意味ないんじゃねーの?」
「……“当て身投げ”」
 マクノシタは、アチャモを掴んで吹っ飛ばした。シャクナは余裕の笑みを浮かべる。
「当て身投げ。後攻になるけど、技は必ず当たる」
「アチャモ、いけるか」
「アッチャ……」
 アチャモはよれよれと立ち上がった。もう体力はほとんどない。
「よし、直接攻撃はやめておこう。“火の粉”!」
「アチャチャー!」
 アチャモは、地に足をしっかりつけ、口から火の粉を吐いた。
「なら、こっちも! “砂かけ”!」
 マクノシタの起こした砂は、火の粉のいくつかを打ち消し、アチャモにかかった。アチャモの視界がぼやける。
「とどめだよ、“突っ張り”!」
「ヘェアー!」
「ア、チャ……」
 アチャモはマクノシタの得意技を受け、力なく倒れた。
「アチャモ、戦闘不能。マクノシタの勝ち!」
「そんな」
「ま、こんなもんよ」
 次のポケモンを繰り出す前に、ヒロトは空のボールを持った。スイッチ一押しで、さっきまで戦っていたアチャモがボールに吸い込まれる。
「あとはスバメに任せて、ゆっくり休んでてくれ。……それじゃ、いくぞ!」
 腰につけた、隣のボールに腕をかけ、それを高く掲げる。鳥ポケモンであるスバメは、こうしておくと、ボールから出てすぐに飛べるからだ。
「“翼で撃つ”!」
 ボールから出た勢いそのままに、スバメの翼はマクノシタの腕に向かった。
「危ない、“砂かけ”!」
 マクノシタは残った力でスバメの視界をさえぎろうとしたが、スバメはそのままマクノシタに突っ込んだ。
「……マクノシタ」
「マクノシタ、戦闘不能。スバメの勝ち!」
「よしっ」
 実質スバメをノーダメージに抑え、相手のポケモンも残り一匹となった。
「ありがとう、マクノシタ。よく戦ってくれたね……」
「これでふりだしですよね」
「……まあ、そうだね。でも、次はもーっと強いポケモンで相手するわ。突撃よ、アサナン!」
 その時シャクナのボールから出てきたポケモンは、ヒロトも知らないポケモンだった。図鑑が反応する。
「アサナン……」
 そのポケモンは、尖った頭に丸く渦巻いた耳が特徴的であった。丸く強い筋肉のついたマクノシタとは対照的に、しなやかな筋肉がついている。
「それじゃ、まずは準備! “瞑想”」
 アサナンは、両手でくるり空気をなで、静かな世界を作り上げた。
「アサナンはこれがないとやる気が出ないみたいで」
「よし、こっちも行くぞ、“つつく”!」
 スバメは接近したままアサナンに嘴を突き出したが、アサナンはそれを頭で受け止める。
「そのまま“ずつき”!」
 アサナンが頭一つ突き出すと、逆にスバメがやられてしまった。
「ちゅーん!」
「スバメ! ……すごい攻撃力だ」
「アサナンの特性である“ヨガパワー”が、攻撃力を高める助けになってるってこと」
 自慢の嘴を傷つけられたスバメは、羽根をばさばさといわせ、怒りをあらわにした。
「よし、ここはアサナンから一旦離れて……」
 スバメは高く飛ぶ。これはまた“翼で撃つ”の体勢だ。
「よし、そのままいけ!」
「甘いわ」
 スバメが勢いをつけるため旋回している間、アサナンは静止した。
 そして、スバメの羽音を聞いて、そっと目を開く。両手を前に突き出し、スバメの動きをも静止してみせた。
「これは……?」
「“念力”。あなたのスバメが回り道をしている間に、もう一度“瞑想”もしておいたから、特殊攻撃力も高まっているわ。それじゃアサナン、いつものよろしくね」
 アサナンは、一度ゆっくりスバメの身体を持ち上げ、それからすこし下向きの力を加え、念力を解いた。スバメはジムを揺らすほどの衝撃で、フィールドに叩きつけられた。
「ちゅんっ……」
「道場で、飛行ポケモン同士のバトルを見た時に思ったの。“翼で撃つ”で勢いをつけている間に、こういうことができないかって」
「くっ……スバメ、まだいけるか?」
「ちゅーん!」
 スバメは勇敢に立ち上がった。燃えるような瞳が、まだ戦えることを表していた。

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