Stage 5 : リーグ制覇のスタートライン


「なかなかタフね。それじゃこれはどうかしら? “我慢”」
 シャクナが抑揚なく言うと、アサナンはその場にあぐらをかいた。
 “我慢”という技のことは、ヒロトも知っていた。我慢している間は相手の攻撃を受け、我慢が解かれた時に一気に反撃するという、なかなかやっかいな技だ。
「どうくる?」
「……スバメ、一旦離れて」
「ちゅん」
 スバメの攻撃力では、相手の我慢が解かれる前にアサナンを倒すことはできない。
「よし、スバメ、いくぞ……“気合だめ”」
「ちゅん!」
 スバメは一鳴きし、集中力を高めた。
「そのまま、ややしゃがんで走る!」
 だだだだだ、と、静かなジムにスバメの足音が聞こえた。地べたを走るのが苦手な鳥ポケモンだ、大したことはない、とシャクナは笑みを浮かべた。
「加速、“電光石火”!」
 スバメはそこで、しゃがんだまま技の力で加速した。
「なっ……」
「いっけー!」
 スバメは、フィールドを一直線に走りぬけ、アサナンをすくい上げるように攻撃した。アサナンの身体がふわりと浮く。
「……でも、残念だったわね、我慢は解け……」
「“翼で撃つ”!」
「ちゅちゅーんっ!」
 地べたを走った勢いでも、“電光石火”の直後に繰り出せば、威力も通常の空中旋回にも劣らない。
 アサナンに我慢を解かせる暇もないまま、強靭な翼がアサナンを襲った。
「成功だ、二枚刃攻撃!」
「……プクプク」
 アサナンは、苦手な飛行タイプの攻撃を受け、ふらりと倒れた。
「アサナン、戦闘不能。スバメの勝ち。よって勝者、ハツガタウンのヒロト!」
「いやったー!」
 その声に、スバメはヒロトの元へふらふら飛ぶ。ヒロトはスバメをしっかりと抱きしめた。
「よくやったぞ、スバメ!」
「はぁ。対策してたっていうのにこれじゃ、私もまだまだね……トーチャンの手伝いもしばらく続きそう」
 シャクナは、一度ジムの奥へ引っ込み、勝者の証である、輝くバッジを一つ持った。
「ラッシュバッジ。人から貰ったポケモンでも、レベル十までなら言うことを聞いてくれるようになる。それだけトレーナーとして認められるってこと」
「ありがとうございます……くーっ、嬉しい! ラッシュバッジゲット、サクセース!」
「ちゅんちゅーん!」
「……はぁ。子供って元気ね。昨日の子はそんなでもなかったけど」
「ん、昨日?」
「別の子を相手にして。その子は無愛想っていうか、ちょっと威圧的だったくらい」
 そう聞いてヒロトの脳裏には、すぐにフミヤの顔が描かれた。
「ひょっとして、紫ロン毛の……」
「よくわかったね。友達?」
「いえ、ただ心当たりがあっただけです。ってことはミズホはまだなんですよね。あいつ勝てるかなー」
「何人来ようと、私は真剣にバトルする! それだけよ」
 シャクナは両手でグーを作った。審判をしていた男性が、もといたジム入り口に戻り、ヒロトに言った。
「さて、次はヒウメシティに行くんだよな? 君のポケモンじゃ、まだ水タイプのポケモンは倒しにくい……だから、道中の“ヒウメの森”で、草タイプのポケモンを捕まえておくといいぞ」
「そうですか、水ポケモン、そうですよね……わざわざありがとうございます、それじゃ」

 輝くラッシュバッジをケースに入れ、ヒロトは商人の町を出た。
「よーし、次は草タイプポケモンゲット! そんでもってフミヤを倒す!」
 ヒロトの視線の先には、サバンナ地帯のサクハには珍しい、まとまった森が広がっていた。

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