Stage 7 : 若者文化と大人の友情


 シックストリートに入った瞬間から、薬品の匂いが立ち込めていた。
 白いアスファルトの上、ヒロトは看板を見渡す。どうやらメディカル街のようで、なんとか医院だとか、眼科だとかが並んでいる。
「シック、つまり病気。君はポケモントレーナーかい?」
 白衣の男性がヒロトに話しかけてきた。そこまで若くはないが、初老というほど老けてもいない。
「え、はい、そうですけど」
「やっぱり。何となくわかったよ。それじゃあ、ポケモンを見せてくれないか?」
「もちろん! 皆大事なパートナーです」
 ヒロトは、アチャモ、スバメ、そしてナゾノクサの三匹を出した。
「ほうほう……こっちの二匹は、君のことが大好きで、そしてとっても信じているようだ。でもこのナゾノクサは……」
「あー、はい、捕まえたばかりなんです。一目見ただけでわかったんですか?」
「僕は整形外科医だけど、一応ポケモンも診ることができるからね」
 大人らしくふっと笑うと、青い髪が揺れた。
「旅は初めてどのくらい?」
「ハツガタウンを出て……二週間くらいです」
 それを聞いた医者は、白衣のポケットを漁る。出てきたのは、古びた写真であった。
「この人を探してほしいんだ。どうしても会いたい友達で、僕も暇を見つけては探しているんだけど、この大都会を歩き回るのは足腰に来るからね……。もちろんお礼はする」
 ヒロトは受け取ってそれを見る。何年前の写真かはわからないが、そこに写された青年は、角ばった輪郭に細目というわかりやすい特徴を持っていた。
「僕もヒウメの一部しか回りませんが、それでもいいですか?」
「もちろん」

 メインストリートのテレビ局前を確認する。この場所だけは押さえておかなければならない。
「にしても、人、多いな。まずはツーストリートか」
「チャモ」
 一匹だけボールに入れずにいたアチャモが反応した。
 ツーストリートへ行くためにメインストリートを西に進むと、テレビ局があった。夕方には、ここに行けばよい。
「せっかく頼まれたんだし……見つけたいよなぁー」
 百貨店を右に曲がり、ツーストリートへ入る。だが、そこはとても「ストリート」と言えるような場所ではなかった。
 道のど真ん中にネットが張られており、その両端を通行人が行く。通行人自体は他の通りより少ないようで、不自由はないようだ。ネットが張られたところでは、なにやら球技が行われている。
 アタッカーが思いっきりボールを蹴り、相手陣に叩きつける。これで一点、観戦していた者から歓声と拍手が起こった。アチャモも、そのプレイに見とれた。
「セパタクロー!」
 セパタクロー。ネットを置いたコートで、ボールを蹴って相手の陣に返す。サクハ地方で非常に盛んなスポーツで、ヒロトも季節になるとプロリーグをテレビで観戦している。
「そのとーおり!」
 三人制チーム、ヒロト側中央にいた天然パーマの少年が振り向いた。ポジションでいうとサーバーだ。
「普段は郊外でやってるけど、俺らヒウメライツのジュニアチームは、たまにこうしてツーストリートでもやってる。ヒウメにもっとファンを増やすためにね!」
 それから、底抜けに明るい六人が集まった。ゲームをしていたが、二チームともヒウメライツジュニアのメンバーらしい。
「君はヒウメシティの人間……? いや、靴が汚れているな、旅の途中か?」
「あ、うん、ハツガタウンから来たんだ」
「ハツガタウン、というと、セパタクローのチームは存在しない……ってことで、決まり! これから君は、ヒウメライツのファンな。俺も絶対トップチームに上がって、プロ入りするんだからな!」
「強引だなぁ。でも普段は応援チームとか考えずに観戦してるから、次見た時はヒウメライツを応援するぞ!」
「アッチャー!」
「やったね、一人と一匹、ファン獲得! できれば一時的にじゃなくて、永遠に頼む! ヒウメライツは光り続けるからな」
「お前、プロになってから言えよ」
 さっき得点したアタッカーが言った。サーバーの少年は、ははっと笑い、天然パーマを掻いた。
「ヒウメシティの皆って明るいな。都会って聞いてたから、もっと冷たいのかと思ってたけど、全然違った! ……あ、そうだ、こんな人見たことない?」
 ヒロトは、医者から受け取った古い写真を六人に見せた。その中の二人が反応する。うち一人はサーバーの少年だった。
「この人って!」
「だよな」
 二人は顔を見合わせた。ヒロトは、いきなり有力情報が得られそうで、さらに詰め寄る。
「知ってる!?」
「今日は来てない、けど、たまに観に来てくれるよね。もっと老けてるけど。えっと今日は……いないなぁ」
 もちろん、この古い写真よりは老けていて当然だ。
「名前とかわかる?」
「うーん、そこまでは……わかりやすい顔してるから、確か……そう! スリーストリートでも見たことあるよ」
 スリーストリートとなると、もとからダブルダッチの二人に言われ、行こうとしていた時だ。
「俺たちも探してやるよ。丁度今日のゲームは終わりだしな。いいよな?」
「ってことは、顔を知ってる俺も、と。じゃあキャプテン、ちょっと行ってきます!」
「ああ、足腰鍛えるつもりで行ってこい!」

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