Stage 7 : 若者文化と大人の友情


 三人制のチームだ、代わりなんていくらでもいる。控えの選手だけじゃない。
 疲労骨折。
 そう診断された時、私の選手生命は断たれた。
 治すには、セパタクローを完全に中止せねばならない。その間にも、三人制チームのレギュラー争いが繰り広げられるだろう。
 このまま、忘れられてしまった方が。

「いた、あの人だ!」
 天然パーマの少年が指した方向には、あの写真より老けた男性がいた。
「ダブルダッチを見てるみたいだな……よし、スバメ! あのお医者さんをここへ」
「ちゅん!」
 スバメは飛び立つ。十数分後には戻ったきた。
 医者は、古くからの友人に歩み寄る。写真の男性はゆっくり顔を上げ、そして慄然とした。
「なんでお前がっ……」
 挨拶もなくそう言われ、医者は名刺を差し出した。
 整形外科医、ハロルド。
「眼科医になる予定だったけどやめた。正直、ヒウメの整形外科なんてどこもヤブ医者だからな」
「なんで……」
「僕が医大に入る時、お前の話を聞いたから。かつて勉強ばかりで友達がいなかった僕に話しかけてくれた人を、その場で助けられなかったのは悔しかった……」
「ハロルド」
 セパタクローの二人とヒロトは、そこまでは少し離れた場所で聞いていたが、前髪ぱっつんには男性に心当たりがあった。
「ひょっとしてあの人、ヒウメライツの伝説、リゴルじゃ……!?」
 昔の雑誌で見ただけで、真正面から見たことはなかったが、あの細目とかくばった輪郭、そして何よりあの二人の会話からそうとしか思えなかった。
「ハロルドさん、そしてリゴルさーん!」
 前髪ぱっつんが前進した。それに天然パーマとヒロトも続く。
「セパタクローやろうよ。まだヒウメにはシニアチームがない。途中でやめなきゃいけなかった人もプロを引退した人も、まだまだやればいいんだよ」
「そうだっ! 俺たちだってずっとセパタクローやってたいしな!」
 元気なジュニア選手を見て、ハロルドも言う。
「怪我した時は僕のもとへ来てくれよ。すぐに治してやる」
 男性はぽかんとする。アチャモはぴょんぴょんとびはねた。
「アチャ、アッチャー!」
「ん、アチャモ、お前もやりたいのか?」
「せっかくだし、ここのメンバーでセパタクローしませんか? 丁度五人と一匹ですし」
「いいな!」
 ハロルドが言って、友人リゴルを見る。リゴルはうっすら微笑んだ。
「待って待って、オレたちもやりたーい!」
 ことの成り行きを見ていた、ダブルダッチの二人が話しかけてきた。
「ビジネスの大人、文化の若者なんて言葉、もう古いってあたしは思ってた! おっちゃんたちも、青春してけばよろしい!」
「よし、そんじゃ混ざれ!初心者多いし、なんでもありの四人制ゲームだ!」
「おーっ!」

「そんなのありかよっ!」
「なんでもありっつったろ!」

「てかリゴルさんやべぇ! ずっとやってなかったとは思えませんよ」
「久しぶりにやると、張り切ってしまうな、さあ来い!」

「よし、行ったぞアチャモ!」
「チャーモッ!」
「ナイス、高い!」

 夢中になってやっていると、いつの間にか太陽は沈んでしまっていた。皆で休んでいる時、寒い風を受けてヒロトは思い出す。
「あっ、ジム戦……すっかり忘れてた!」
「そうだったな、あちゃー……明日っつったら」
「日曜日じゃない? チャービルさん日曜日はテレビの仕事午前だけよ」
「ほんとですか? よかったー」
 ダブルダッチの二人とヒロトの会話に、他の四人も興味を抱く。
「ジム戦すんのか?」
「うん」
「そっちも頑張れよ」
「うん。僕、君たちがプロ、それもレギュラーになれたら、ずっとヒウメライツを応援するよ!」
 その日は、そう言って別れた。

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