Stage 8 : チャービル、その姿


 ヒロトは、チャービルの収録が終わる時間に、ジムに挑戦する者が待機するらしいロビーに座っていた。受付嬢からも、ジムですか、と訊かれたことから、ここは本当にそういう意味合いをもった場所なのだ。
 受付嬢も日曜は暇らしく、しばらくヒロトは彼女と話した。
「こんな時ね、いったい本業はアナウンサーとジムリーダーどっちなんだと、イライラする挑戦者もいるの。彼はどっちも大切にしてるから、そこは知っててほしいな」
「はい」
 昨日のセパタクローで疲れたアチャモも、ポケモンセンターに行ってすっかり元気になった。
「あ、チャービルさん、お疲れ様です」
 チャービルと呼ばれたのは、髪を緑、黄、赤に染め分け、前髪が右にはねている男性だった。
「お疲れ様ー。あれ、一人?」
「ハツガタウンのヒロトです。よろしくお願いします」
「はは、また元気な子だねっ! 昨日はかわいこちゃんで、今日はボーヤ! 二日連続なんていつ以来か……」
「えっ、かわいこちゃんって、ひょっとしてミズホ……」
「ああ、友達? いや、ライバルかな? そういえば彼女もハツガだったな。実は私、負けちゃったんだけど」
 ミズホに先を越された。そうと知って、ヒロトはいてもたってもいられなくなる。
「それを聞いて、僕も負けられなくなりました」
「わーお!」

 ヒウメジムに向かう途中でも、チャービルはよく話した。
「きゃーっ、チャービルだー! 本物っ」
「もちろん、私はチャービルさっ! ……って、君の顔は見たことあるぞ。追っかけってやつなのか!」
「やった、顔覚えられてるー」
「なんてったって、美しいレディだからね、そんな君たちにお願い! あんまり話すと、挑戦者くんが緊張するからね、ここでバイバイな」
「バイバーイッ、負けないでよチャービルーっ」
 おおよそこんなやりとりを、ジムに着くまでに三度はしていた。人気者だが、本当に顔を覚えているのは何人程度なのだろうか。
 ジムに入ると、中央に並木道が走っていた。一番奥に扉が見える。チャービルはそこまで走って、扉の前に立った。
「おーす、未来のチャンピオン」
 一人になったヒロトに、入り口付近にいた男性が話しかけた。
「あ、あなたは! クダイジムにもいた」
「ああ、同胞のことだな。おれとは別人。あと六人はそっくりさんを見るかもな、ガハハハハ!」
 クダイジムの彼と役割が同じなら、この人も審判兼アドバイザーであろう。
「さて、陽気なグラスホッパー、チャービルに挑戦するには、並木道を進んで、茂みを飛び出すトレーナーたちとバトルしてからだ。あいつらも腕が立つからな、気を抜かずに行けよ!」
「わかってます!」
 ヒロトは勢いよく、並木道に飛び込み、一人目のトレーナーに挑んだ。

 一旦ポケモンセンターに行ってから、ヒロトはジムの並木道を駆け抜けた。
 もう飛び出すトレーナーはいない。全員倒してしまったからだ。
 ヒロトの後ろから審判もついてくる。
「お疲れ様。それじゃあ始めようか、宴を!」
 チャービルが扉の横にあったボタンを押すと扉はすっと開いた。

 扉のすぐ先には、地下への階段。三人が階段をくだる様子は弟子トレーナーたちも見ていた。
「いっつもだよな」
「タイマンの試合は絶対見せないから、挑戦者と審判以外絶対入れない。オレたちも見れた方が勉強になるのに……」

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