Stage 8 : チャービル、その姿


 挑戦者サイドへ促されると、ヒロトはまずナゾノクサを出した。
「こら、まだ開始の合図は」
「いえ、ナゾノクサは使いません。ただ、捕まえたばかりなので、一度ジム戦を見せたいんです」
「えっ」
「いけませんか?」
「いや、特に禁止はしていない。チャービル、いいか?」
「禁止でないなら……」
 チャービルの声は少し曇っていた。
 ナゾノクサは、審判と反対側にちょこんと座った。
「さて。私はチャービル! できればもっとかっこいい肩書きがよかったんだけど、陽気なグラスホッパーなんて言われてる、だが否定はしない! 懸賞でタネボーが当たったところから始まった、草ポケモン使いの成功者である私に勝てるかな?」
 自分の話は終わった、という合図に、チャービルはボールを一つ取った。
「使用ポケモンは二体! ヒウメシティジムリーダー、チャービル対ハツガタウンのヒロト、試合開始!」
「勢いつけてけ、スバメ!」
「まずはじめは、この子、キノココーッ!」
「キノーッ!」
 キノココは、ボールから出るなり、のっしのっしと歩き、チャービルから数メートル離れたところで静止した。
 素早さではスバメが勝るだろう、と確信したヒロトは、早速技の指示を出した。
「“翼で撃つ”!」
 飛行タイプの技は、草タイプのキノココには効果抜群。スバメは素早い動きで、ダメージを与えた。
「じゃあ、まずはその動きから封じなくちゃねぇ……。」
 直後、スバメは痺れだした。
「い、いつのまに!」
「“痺れ粉”。あまり素早くはないキノココにぴったりの技だ。続いて、“宿り木のタネ”」
 キノココは、小さな種をいくつか吹き出し、その種はスバメにくっついた。種の成長とともに、体力はキノココに奪われる。
 痺れと種の成長に耐えるスバメを見ながら、ヒロトはどうするか頭を巡らせた。
 勢い重視の“電光石火”や“翼で撃つ”では、攻撃に向かう途中で痺れが来るかもしれない。ここはあまり動きのない技で攻める。
「“つつく”!」
 鋭いくちばしを突きだした攻撃は、少し出るタイミングが遅くとも十分ダメージを与えた。
「“メガドレイン”!」
 “吸いとる”に似ているが威力が高い技、メガドレインがスバメを襲う。だが、スバメには効果はいまひとつで、実質的なダメージは“吸いとる”とほぼ等しかった。
「スバメ……まだいけるか」
「ちゅん……」
 このままだと、宿り木に体力を吸いとられ、戦闘不能だ。スバメはキノココに相性はいい。だからどうしても倒しておきたかった。
「気合い入れろぉ! “電光石火”!」
 スバメは走る。途中痺れがきついのか、バランスを崩す。
「スバメ……!」
「ちゅ」
 勢いはまだ生きている。
「ぢゅんっ!」
「キノー!」
 ほぼ体当たりのようなものだったが、勢いを失うことなくダメージを与えることができた。
「キノココ、戦闘不能。スバメの勝ち!」
「いやった!」
 そして審判は、スバメを見た。
「……スバメ、戦闘不能」
「えっ」
 スバメはかなり息が乱れていた。宿り木に絡まれ、もう戦えそうもない。
「スバメ!」
 それを見て、急いでスバメをボールに戻す。
「“宿り木のタネ”は一度ボールに戻すと消滅する。毒や麻痺はそのままだが」
 審判が言った。
「そうですか……。スバメ、よくやったよ。あとはアチャモがしっかりやってくれる」
 ボールを持ち換えると、思わぬところから声援が届いた。
「ナゾ、ナーゾー!」
「えっ、応援してくれるのか?」
 ナゾノクサは、弱く頷いた。
「嬉しい! 頑張るぞ。まだまだです、チャービルさん!」
「あっ……ああ!」
 真っ直ぐ瞳を見たヒロトに、チャービルはためらいがちに応えた。

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