クオン遺跡の第一印象はまさに「混沌」であった。
遺跡の部分は砂地に埋もれかけており、なんちゃら跡だのなんだのいった説明文がかすかに見える。また、柱のあった場所が、色の違うタイルで示されていた。
もう少し進めば建物がある。そのあたりは比較的きれいに残っているようだ。
さらに、その遺跡を囲うようにサイクリングロードの高架がある。どうやら北の町とヒウメをつなぐものらしい。
「本で見たことはあるけど、なんというか本物は……不思議な感じがするなぁ」
「シャモ……」
ワカシャモは古い建物と、ぴかぴかのサイクリングロードを見比べ、驚嘆の一言を漏らした。
「よし、いくぞー」
地上から次の町に出るには、クオン遺跡を通るしかない。
ヒロトは靴に砂が流れる感覚に耐えつつ歩いた。少し進んだ先にあった壁に、なにやら文字らしきものが刻まれていた。
「どういう意味なんだろうな……」
「シャモ……?」
二つの記号が寄り添って一文字を形成しているらしいことはヒロトにもわかった。
となると、上段左から三つ目と下段左から二つ目は同じ文字だ。
ヒロトはそっと文字をなぞる。どうやら風化を防止するための塗料が後から塗られたようだ。
読めないのなら見ていても仕方がない、と思い、暗い遺跡に足を踏み入れると。
「ホホ、碑文はいただいていくわ!」
「こら、待つんだ!」
そんな声が聞こえた後には、バタバタと足音がこだました。
それらでわかったのは、この遺跡にあるであろう“碑文”を盗もうとするやつがいる、ということだ。
ヒロトは恐る恐る二歩目を出す。そして、そのまま忍び足で歩く。ワカシャモも続いて歩いた。
入り組んだ壁を避けて進むと、下の部屋へとはしごが伸びる突き当たりにたどり着いた。
「……下りるぞ」
「シャモッ」
下りた先は闇の世界であった。ワカシャモの炎で、ほんの少しのものが見える程度だ。
こういう時は“フラッシュ”という技が有効だというが、ヒロトのメンバーで使えるポケモンはいない。
闇の恐怖で動けずにいると、急に光が照らされた。
「そこか!」
「ひぃっ!」
ヒロトは、急に呼びかけられ、さらに強い光を浴びせられ、硬直した。ワカシャモは汗をだらだらしたたらせながらも、相手を威嚇する。
一瞬目がくらんだのち、鋼の翼を輝かせたポケモンと、夕焼け色の髪がはねた青年の顔が見えた。
「あれ、通りすがりのトレーナーか……あいつらどこに行ったんだ……?」
「あの、僕ほんの少しだけ声が聞こえたんですけど、あいつらっていうのは、ひょっとしてユート団……」
「えっ君知ってるの?」
「はい」
「そうか。世間的な知名度も……まあ、君が知っていたとして、俺には関係ない、か。ここは危険だ。どこかに避難するか、一旦戻った方がいい」
そう言って彼は去ろうとする。ヒロトは待ってください、と言って彼を止める。
「“フラッシュ”を持つポケモンもいないし、一階も迷路なので戻ることはできないと思います。それと……カラジさん、ご存知ですか」
「えっ」
青年はその人名に反応する。知っているということだろう。
「僕は“外来種保護マシン”が完成次第、ユート団の逃がしたポケモンを保護する……と約束しました」
「ふむ」
青年は振り向き、今度はヒロトの隣にいるワカシャモを見た。
「なるほど、まだ荒削りではあるが能力は高い……シヨウカ博士にもらったポケモンだよね?」
「はい」
「それじゃあ、君にも協力してもらおう。俺はリンド、それから、敬語はいい」
「僕はヒロトです。それじゃ、よろしく」
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