Stage 9 : 陰謀渦巻く遺跡


 ヒロトは、暗闇と、いつユート団が現れるかという恐怖に苛まれながらも道を進んだ。
 隣を歩くリンドは、一見頼りなさそうに見えるが、彼の話がヒロトを和ませた。
「ヒロト君ってさ、旅のトレーナーだよね」
「うん。チャンピオン目指して、ワカシャモたちと!」
 ヒロトは得意になってバッジケースを見せる。クダイジムのラッシュバッジ、ヒウメジムのシンゼスバッジは、きれいに磨かれて存在感を放っていた。
「バッジじゃないか! すごいなー、これがいずれ八つに……なるのかな」
「なる、絶対! だからもっともっと強くならないとな」
「そっか」

 クオン遺跡の内部は、一部遺跡とは思えないような空間が見られた。後から増やしたとしか思えない不自然な部屋、新しい石で作られたカウンターなど、それはヒロトにも一目瞭然であった。
 そちらに目を奪われていると、リンドが口を開いた。
「十年前」
 深みのある声で語り始めるリンドに、ヒロトは耳を傾けた。
「大統一時代、と呼ばれた時代、サクハ地方はアフカスの、そしてサクハの名のもとに統一を成し遂げた。それから、サクハの歴史や遺跡に価値が見出されるようになり、ここクオンも保存と研究の対象になった。その時」
「その時?」
「ここには、昔の戦争で居場所を失った民族が居ついていた。見てのとおり乾燥しすぎて、住むには向かない場所だから、そういう人が流れてきてもおかしくはない。統一後、彼らの残したものを取り除くか保存するかで、ずっと意見が分かれてる。今のところまだ残ってるみたいだけどね」
「それで、十年前まで住んでたって人は今どこにいるの?」
「移住を強いられて、ほとんどの人は安い住宅地に住んでるんじゃないかな。俺は、彼らが住んでいたことも歴史の一つだと思ってるけどね」
 リンドはきれいに切り取られた石を、憂いを含んだ瞳で見る。
「あと、一つ気になることがあったんだけど。あの、アフ……なんとか、って?」
「ああ、アフカスね。それは……むっ!」
 リンドがまた話し出そうとした時、カウンターから四匹のポケモンが飛び出した。古めかしいランプのようなものの中で紫色の炎を燃やしているそのポケモンたちは、二人と二匹を威嚇する。
「ランプラー……サクハにはいないポケモン、ということは!」
 その言葉に、リンドの傍らのポケモンがいち早く反応した。周りにとがった岩を漂わせ、ランプラーの動きを制限する。
「絶対に捕まえないといけないからな……エアームド、“燕返し”」
「ワッ、ワカシャモも! えーっと……」
「炎・ゴーストだ」
「それじゃあ“つつく”!」
 リンドは急いで言ったが、それがランプラーのタイプのことだとヒロトにはすぐにわかった。
 二匹の飛行技が、素早くランプラーたちに突き刺さった。
「倒しちゃいけないから……もうボール投げちゃっていいか。ほら」
 四つの青いボールを取り出したリンドは、そのうち二つをヒロトに渡す。
「スーパーボールだ。モンスターボールよりも性能がいい。……ランプラー、知らない土地に戸惑うのはわかる、このボールに入りたまえ!」
 リンドがボールを投げると、ヒロトも同じように投げた。三匹はボールに入ったが、ヒロトが左手で投げた分は、ランプラーにはじき返されてしまった。
「そんな」
「エアームド!」
 エアームドは、それも素早く撃ち返す。ランプラーはボールに収まってしまえば、なんの抵抗もすることはなかった。
「ボールの空気に、彼らが安心したってことだろうか……それならいいんだけど」
 リンドが言う。ヒロトは床に落ちたボールを拾い集め、リンドに渡した。
「連れてこられた側のポケモンも辛いんだな」
「うん……そうだな」
 リンドはボールを鞄に入れる。すでに腰には六つのボールがついていた。
「それで、あれだ……アフカスの話だったね。おいで」
 奥へ進みゆくリンドを、ヒロトとワカシャモは早足で追いかけた。

「ここだよ。エアームド、床に向かって光を」

 エアームドは、“フラッシュ”の力を床に集中させた。



 ヒロトが入り口の壁で見たようなものとは違い、この文字が書かれたプレートは目新しさを感じさせた。
「アフカスについて書かれた碑文、のレプリカ。十年前に色々あって、今はさらに下の部屋、鍵がないと行けない場所に安置されてる」
「すげー……これなんて書いてあるかわかる?」
「んー、俺もあんまり詳しくないけど、現代風に言えば「アフカス 我々の世界、我々の言葉」……って感じらしいよ。アフカスっていうのは、アカガネ山で眠ってるサクハの伝説ポケモンだけど、昔は世界も言葉も、同じだったんだ」

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