Stage 9 : 陰謀渦巻く遺跡


「邪魔が入ったようね」
「はい、ランプラーはすでに捕獲されているものと……」
「全く。こっちは計画的にやってんだから、面倒ごとを増やさないでほしいわ!」
「申し訳ありません、おやびん」
「誰がおやびんよ! それに、別にあんたに怒ってるわけじゃないわ」
「……すみません」
「まあいいわ。フミヤはまだ邪魔されてない。あんたの役目、わかるわね?」
「はい」

  ○

 リンドは方位磁石を取り出して、北のカゲミシティへ抜ける道を探した。
 赤い針が指す先の壁には、小さな通路が一つあるだけだった。
「ここに入るしかなさそうだね。暗いな。エアームド、まだいけるか?」
「アーム」
 エアームドは、フラッシュの光をよりいっそう強くした。
 その通路に入るために、リンドは少しかがまなければならなかった。背の低いヒロトが先頭につく。
 入るとすぐに、左右に分かれた道に突き当たった。道の真ん中の壁に、またあの文字が刻まれているのが見え、ヒロトが目を凝らすと、エアームドはそこを照らす。



「えーと……リンドさん、わかる?」
「俺も完璧に読めるわけじゃないからな……でも、考え方はある。これは正解が右の道か左の道か、それを表しているんだろう」
 リンドの助言を受け、ヒロトはまた壁に視線を移した。
「この文字、記号二つ分が一文字なのかな?」
「ふむ……どちらかが母音でどちらかが子音、と考えるとそうだな」
「なるほど! ってことは、これ三文字分ってことだよな。つまり……」
 二人は、ひだり、と異口同音に言った。
「よし、左か!」
 ヒロトは左の道を選んで進む。リンドは、その三文字のメモをとった。

 道を進むと、また左右に分かれた道に突き当たった。



「これは二文字分だから、右だね」
 ヒロトが文字を見て言う。リンドがメモをとり、「ひだり」の「だ」、「みぎ」の「ぎ」を表しているだろう文字を見比べる。
「……さっきの「ひだり」と比べると、どうもこれが濁点を表すみたいだね」
 リンドはその二文字を指さして、ヒロトにも見せる。ヒロトはすぐに納得した。

「困った……道が上か下かって……」
 次の分かれ道は、右手に上り階段、左手に下り階段があった。



「うーん、上と下じゃどっちも二文字だし、濁点もない……」
「でも、出口は上じゃないかな? これ以上深く潜っても」
「いや、それこそが罠かもしれない。ひとまず文字をメモさせてくれ」
 リンドは、その二文字を、「みぎ」と「ひだり」の下に続けて書いた。



  「……なるほど。わかったぞ」
 リンドはにやっと笑う。ヒロトがリンドのメモを覗き込んだ。
「「う」も「え」もあ行で母音。そしてここの文字は、左側の記号が共通しているんだ」



「なるほど、僕もわかった。それじゃあ、この記号が表しているのは、両方とも母音の……」
「そう、上!」リンドが天を指して言う。
 右の上り階段に身体を向けた刹那、下から声が聞こえた。
「碑文があったぞ! これを盗んじまえば、我々ユート団の夢が叶えられる!」
 その声が地面に響くとともに、ヒロトは絶句して立ち尽くす。だが、リンドは条件反射的に下に向かう。
「あ、リンド!」我にかえったヒロトが言った。
「君も来るのかい?」
「はじめ言ったじゃないですか、僕も協力してるんだって」
「しかし……」
 そう言っている間にも、ヒロトは階段を下る。最終的に、二人ともなだれ込むように下の階の部屋についた。
「サクハの大地をむさぼる、ユート団。姿を現したまえ!」
 リンドが言うと、エアームドが前に出る。照らされた部屋は存外広く、中には下っ端と思われる男性団員が一人いた。
「ひっ、ひぃやあっ! お前はっ!」
 団員はリンドを見るやいなや、逃げ腰になって階段に向かう。ヒロトは手を伸ばし、団員の服を掴もうとするが、先に彼の逃走を阻止した影があった。
「みっともないわねぇ、だからあんたは下っ端なのよ」
 尖った女性の声が、彼の行動を咎める。
「おやびんっ……」
「その呼び方はやめなさい」
「だって、みんな」
「下っ端の右に倣う必要なんかないのよ!」
「はいっ、すみません、カレット様!」
 団員はぺこぺこと女性に頭を下げた。リンドの指示で、エアームドは女性を照らす。
「カレット、というのがお前の名だな」
 リンドがそう言うと、カレットはリンドのほうを見て、納得したようにため息をつく。
「そうよ、なにこのお迎え? まぶしいじゃない」
 カレットは右にずれ、光の直射を避けた。赤いポニーテールが揺れ、黄色い輪状の髪飾りがきらりと光った。
「黄色い輪……ユート団幹部の証」
「よく御存じね。悟られたからには、あんたたちをやすやすと逃がすことはできないわ」
 カレットは、モンスターボールを取る。
「お、おやびん、私も」
「あんたは碑文でも持って引っ込んでなさい! 私一人で充分だわ」
「ユート団を止めたいなら、バトルしなさいよ」
 ぽんぽん、と続いて出てきたのは、ランプラーとエレブーだった。
「やっぱりランプラー……」
「ええ、シャンデラまで育てれば強いから」
 二匹を見たエアームドは光を弱め、臨戦態勢につく。ヒロトが緊張した面持ちでワカシャモのほうを見ると、ワカシャモは頼もしく微笑んだ。
「ワカシャモ、行ってくれるか」
「シャモ!」
 ワカシャモは前進し、エアームドの隣に立った。
「これで二対二ね」
「楽しいバトルのはじまりだ」
 飄々とした態度を崩さず、リンドは言った。
「随分余裕かましちゃってるじゃない。いいわ、ボコボコにしてあげるから!」

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