北の開拓者たち


 トランは素早く、次のポケモンを出す。そのポケモンは、ボールから出るなり真っ赤な身体で宙返りし、華麗に着地した。
「ヒヒダルマか」
「ウゴウ!」
 カグロにとっては、イッシュ地方のリゾートデザートで特異な“ダルマモード”となることができる、亜種ともいえる特性を持ったヒヒダルマとバトルしたことが強く記憶に残っている。だが、通常の特性である“力ずく”のほうがバトル面では重宝され、かなりの攻撃力を誇る炎タイプポケモンとしての面も、もちろん熟知していた。
 ヒヒダルマにトゲキッスは速さで勝てない。 “神速”があれば良いのだがそれもなく、ヒヒダルマが攻撃をしてこないわけがない。
「“フレアドライブ”!」
 炎タイプ一の攻撃力を持つといわれるポケモンの、反動をうながすほどの大技がたちまちトゲキッスを襲い、周りに炎を立ち上らせた。その素早さに、避けることもままならぬまま、トゲキッスは力尽きてしまった。
「トゲキッス、戦闘不能。ヒヒダルマの勝ち」
「これで二対二です」
「やるじゃないか。だがヒヒダルマには反動がある」
 カグロの言葉通り、ヒヒダルマは息を切らし、呼吸が激しくなったが、トランもそれを理解していた。
「少しずつ落ち着いていけばいいの。まだいけるよね?」
「ゴ……ウ」
 ヒヒダルマが少しずつ落ち着きを取り戻すのをよそに、カグロは次のボールを手に取る。
 いくぞ、と声をかけボールから出てきたのは、カグロにとってなにかと縁が深いランターンだった。
「よりによって、と取るべきか、好機と取るべきか」
「……? まあいいです、攻撃を続けます! “岩なだれ”」
 ヒヒダルマとタイプが違うとはいえ、安定して繰り出せる技だ。降ってくる岩に当たったりなんとか避けたりしながらも、ランターンは耐えた。
「“電磁波”」
 ランターンは、相手を絶対にまひ状態にする技をヒヒダルマに真っ直ぐ当て、オボンの実をかじって体力を回復する。
「続いて“なみのり”」
 ヒヒダルマが痺れる中、先制をとったのはランターンであった。大波がヒヒダルマを覆うが、その中でもヒヒダルマは大きな手を床からはがすことなく平静を保つ。そして、波が引くと攻撃体勢に入った。
「もう一度です!」
 ヒヒダルマは、身にしたたる水から目線を逸らし、岩を投げる。だが、降りかかる岩のほとんどはランターンにかすりもしなかった。水を浴びたことが、“岩なだれ”の命中率の低さに拍車をかけたのだ。
「そのままいけ」
「ラーン!」
 ランターンはさらに大波を起こす。連続で受ける水技に、ヒヒダルマも成す術がなかった。
「ヒヒダルマ、戦闘不能。ランターンの勝ち!」
「お疲れ様、ヒヒダルマ。……カグロさん、あなたの判断は素早く、そして的確ですね」
「何匹ものポケモンを見てきた」
「そうですか。では……これが私の、最後のポケモンです」
 トランのモンスターボールを持つ手に汗がしたたる。指を滑らせながらもスイッチを押すと、カントー地方最強と呼ばれるドラゴンポケモン、カイリューが光とともにあらわれた。

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