北の開拓者たち


 バウ、とひとたび鳴けば、チューブやパイプにまで声が響き渡る。
「ランターン……いけるか」
「ラン」
 岩なだれのダメージは引きずるものの、ランターンはまだ大丈夫なようで、カグロの言葉にも返事した。それを聞いて安心したカグロは、視線をギラリとカイリューに向ける。
「一発で決めるぞ」
 その一言はトランにも聞こえた。カグロ側はまだ二匹のポケモンが戦える。なのに、勝利に急ぐ必要があるのか、トランには疑問だった。
「ランターン、……早まるなよ」
 ランターンはその言葉にも頷いた。
 ランターンとカイリューとでも、カイリューのほうが速い。なにせカイリューは、十六時間で世界を一周すると言われるほど、スピードと持久力があるのだ。
 当てずっぽうで攻撃しても、そのカイリューの能力を考えれば長期戦は苦しくなるだろう。それこそ一発で潰さなければ、たとえ三匹目が残っていたとしても、勝利は難しい。
「まひ状態なんて無駄だって示しましょう! “神速”」
 カイリューは返事はせず、床を蹴って飛び立つ。腹部が床につきそうなくらいの低空飛行で、空気を切り裂いてランターンに向かう。
「今だ」
 ランターンも沈静を保ったまま、本来得意としない氷技、“冷凍ビーム”で迎え撃った。
 その技はカイリューの額をとらえ、勢い余った結晶はV字に散る。
「持つ技が“吹雪”じゃなくてよかった。出し方さえ工夫すれば、一気にダメージを与えられるのはこっちだからな」
 カイリューはうろたえ、ふっと力を失う。
「まだ……まだいけます! カイリュー!」
 それでもトランは声をかける。
「“逆鱗”!」
 カイリューはつぶらな瞳を吊り上げ、“神速”でわずかに残った勢いのままにランターンに突っ込んだ。
「そんな」
「撃たれた分だけ……強くなります」
 トランは続いて指示は出さなかった。ここではじめて、もう戦えないと判断したのだ。二匹はもつれあい、共に床に叩きつけられる。
「カイリュー、ランターン、ともに戦闘不能。……よって勝者、挑戦者のカグロ」
「ランターンで勝つことにこだわってしまうなんてな」
 そう言ってカグロはランターンを戻し、額の汗を腕でぬぐった。カイリューは床に残されたまま、トランが駆け寄る。
「ごめんね、ごめんねカイリュー! ……私が弱いから」
「弱い?」
「はい、意志の弱さです。このカイリューはそれほどバトルの才能がないのですが、ずっと一緒にいた友達で……カイリューのボールが流れてきた時、つい手に取ってしまって」
「……“逆鱗”の時のあの気迫、まさかあの状態から来るとはな。俺はそのカイリューに才能がないとは思わなかったが」
「……ありがとうございます。カイリュー、戻っていいよ」
 バトルを専門とするのであれば、トレーナーは心を鬼にしなければならない時もある。カグロは、固い絆を結んだネオラントやウルガモスであっても、いわゆる路上のバトルでしか戦わせなかった。
「俺がブレーンで、お前が研修生らしいが。……どうやら俺がお前から学べることもあるらしいな」
「えっ、そんな」
「そりゃそうだ、同じ種族のポケモンでも違いがある、トレーナーにも主義の違いはある……」
「……学べることがあれば、良いのですが」

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