北の開拓者たち


 試合は早くから開始していながら、ステラとニアのバトルはまだ終わっていなかった。
 そのことをロダンから聞かされたラッセンとアリコは、試合の長期化に驚いたが、もっと驚いたことがあった。
「ダイジュが勝ったぁ!?」
「信じられへん……トランとバンジローが負けてダイジュが勝つなんて」
「あーあー。バトルホールウェイ、どうしようか」
 今回に関してはただの傍観者であるラッセンとアリコは、仲間を応援したくなるものの、勝ってしまってはフロンティアが困るということはわかっていた。それに、自分より強い挑戦者が現れることは彼らにとって喜びでもあったのだ。
「えー、んなもん、このダイジュさまがブレーンになればいいだけの話じゃないか」
 さっき勝ったばかりの少年は、ラッセンに背後から抱きついた。
「なんやねんいきなり……ロダンさん、ダイジュをブレーンにってできるんですか?」
「まあ、できることはできるけど……ブレーンにはしない」
「えーなんでよーいいじゃんかー! おれ、できるぞ!」
「だから、できるけどしないんだって。まあすぐぴったりの人材探してくるから」
 ロダンの返事に、ダイジュは、ちぇーっと言って口を尖らせた。
「ていうか、キミは勝者の部屋にいなきゃだめだろー」
「だって退屈だしさー」
 ダイジュは不平を言う。一つの場所にとどまっていられない性格は、ロダンも理解していたため、それに関して注意することはしなかった。
「それにしても長いな。ニアはなにかと熱くなりすぎるから、な……まあせっかくだし、勝者の部屋へはみんなで行くか」
「私たちもいいんですか?」
「うん、アリコもラッセンも、ダイジュも新ブレーンにはお世話になるだろ。おいで」

 フィールドには二匹のポケモンが対峙したが、ニアのポケモンをステラは知らなかった。
「なんだ……そいつ」
「カブルモだってさっき言ったでしょ」
「いやそういう意味でなくね」
 そのカブルモというポケモンは、ステラにはとても強そうには見えなかった。遠目に見ても、体長はステラのサーナイトの半分もない。
「いーいのっかな? サーナイトは虫ポケ苦手だよー」
「……ルリ、いけるか」
「サーナ……」
「さぁな、じゃねー!」
「サナ、サナサナ!」
 サーナイトは慌てふためいた。そして否定するような動作をとるが、ステラは笑って、サーナイトを撫でた。
「漫才……?」
 ニアは呆れて言う。
「イエス」
 それからステラは腕をぶんぶん振り回す。
「おかげで気持ちがほぐれたぜ! いくぜールリ、“サイコ……」
「“こらえる”」
 ニアの素早い指示に従い、カブルモは伏せた。サーナイトの、波のある攻撃になんとか耐える。
「音波で返してあげるのはどう? “嫌な音”」
 カブルモは、角と床とをこすらせ、身の毛もよだつような音を響かせた。
「怯んでるうちに……“メガホーン”!」
「ブゥル!」
 カブルモは小さい身体でどたどた駆け抜け、嫌な音に苦しんでいるサーナイトには実物よりずっと大きく見える角を突きつけた。
「ルリ!」
 サーナイトのしなやかな身体が吹っ飛ぶ。
「サーナイト、戦闘不能。カブルモの勝ち」
「マジかよ……あっちも体力ないだろうに」
 ステラはサーナイトを抱き上げ、見つめれば微笑を返す彼女をボールに戻し、恐るべき小さなポケモンの方を見やった。実際、カブルモも息が切れていた。
「ニアもカブルモも、生半可な気持ちでバトルなんかしないよ」

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