北の開拓者たち


 ステラの次なるポケモンは、ルンパッパだった。
「相性はまた不利だけど……勝ちにいくぞ」
「パッパラー」
 ルンパッパは陽気に返事する。
 “メガホーン”は、ルンパッパにとっても脅威だ。ここは一気に決めるしかない、と、ステラは雨を降らすのをあきらめた。
「ルンパ、ルリの残したもの、わかるか」
 ステラは平静を保ちつつ言う。ルンパッパはそれを聞いて、おどけた様子から一変、地を踏みしめて目を見開いた。
「“なみのり”!」
「カブルモ、もう一度“こらえる”」
 カブルモはさっきと同じように伏せる。そこにルンパッパの起こした波が襲うが、カブルモはちっとも動じなかった。
「かかった」
「えっ」
 カブルモが力を抜いた瞬間、大波の後の小波がカブルモを痺れさせた。
「カ、カブッ……」
「カブルモ、戦闘不能。ルンパッパの勝ち」
「どういうこと……?」
 今度はニアが戸惑う番だった。
「ルリの“サイコキネシス”さ。こらえられた分のサイコパワーが残ってて、その動きを読み取って小波がそれに乗せた」
「いっ、言われてもわかんない!」
「まあオイラもよくわかってない」
「もうっ……」
 攻撃が終わってもエネルギーは周りを漂うことがある。それを感じ取れるようになったのも、鋼鉄島での修行の成果だった。
「カブルモ、あんたはよくやったよ。……さて次は!」
 ニアが出したポケモンは、ルンパッパと同じぐらい陽気なサニーゴだった。
「サーニッ」
「サニーゴ……厄介だな」
 “がむしゃら”か、もしくは“ミラーコート”かに来られると、迂闊に草タイプの技で攻めることはできない。ステラは引き続き、“波乗り”で攻めることを決めた。
「もう一度だルンパ! 相手は岩タイプも入ってる」
「ま、どっちにしろサニーゴは跳ね返すんですけどねー」
 サニーゴは大波を耐えつつ、“ミラーコート”でその一部の威力を増して跳ね返す。
「伏せろ、水の流れを読むんだ!」
「パラ!」
 ルンパッパは、ちょうどサニーゴが跳ね返すタイミングで、技が当たるぎりぎりのところで伏せた。
「さすがに、こんな大量の水を一気に跳ね返すことはできないだろ、サニーゴは下の方で波を受けたから、一番負担なく跳ね返すには一度上に流す、よってサニーゴの目の前に攻撃を受けない空間ができる!」
 跳ね返された水流はルンパッパの背後でまた大波となる。
「ま、どっちにせよ水技を跳ね返されたところで、水・草タイプのルンパッパには」
「“ロックブラスト”!」
 至近距離にいることを逆に利用し、ニアはその技を指示した。サニーゴは固い岩のかたまりをルンパッパに投げつける。
「波を起こして防御!」
 二発ほど当たったのち、ルンパッパは波を起こそうとしたが、その前に三発目が来てしまい、その場にうずくまった。
「ルンパッパ……!」
「パ、パラパ」
 ルンパッパは岩が当たった場所をさすりながら立ち上がる。
「もう……大丈夫だろう、“ギガドレイン”」
 ルンパッパは、“波乗り”の時と同じような流れを、草タイプのエネルギー体で作り上げる。ニアはそれをすぐさま読み取り、サニーゴに素早く回転するよう指示した。
「いい、そのまま、力を乗せて」
「サーニッ!」
 サニーゴは周りに“ミラーコート”を張る。ルンパッパの技にダメージを受け、苦しそうにうめきつつも、回転の力で、“ギガドレイン”のエネルギー体をルンパッパに真っ直ぐ跳ね返した。
「体力の回復なんて絶対させない、そのまま“ロックブラスト”!」
 残りのエネルギー体に岩を投げて対抗しつつ、ルンパッパにもじわじわダメージを与えていった。
「ラスト一個!」
「サー、ニー!」
 サニーゴは渾身の力で最後の岩を投げつけた。それはルンパッパの体をも浮かせ、そのまま壁に衝突させた。
「ルンパッパ、戦闘不能、サニーゴの勝ち」
「ルンパー!」
 ステラはルンパッパのもとへ走る。ルンパッパは、全身傷だらけだった。
「ありがと、な。……強えな……」
 ルンパッパをボールに戻すステラに、ニアは冷たい視線を送る。
「なんだよ」
「なんでもない、はやく次のポケモンを」
「それもそうだ」
 ステラはぴかぴかしたボールを手に取る。出てきたポケモンは、床に着地するなりフィールドを震わせた。
「……頼むぞ、ガネル」
「グシ……」
 ステラの一番新しい相棒は、鋼鉄島で出会ったハガネールであった。
「三匹目……」
 ニアが言った。サニーゴがそっと後ろを振り向く。ニアの覚悟した様子を見て、サニーゴは素早く向き直った。
「“大爆発”」
「……は?」
 ステラにとっては、全くの不意打ちであった。大爆発はかなりのリスクが伴い、かつハガネールに効果はいまひとつだからだ。
 爆発による衝撃波が、ハガネールの顔、胴体、そして尻尾へとわたる。ハガネールは辛そうな表情を浮かべた。 「いきなり大ダメージか……」
「手段なんて選ばない」
 ニアは焼け焦げたサニーゴを抱きかかえて言った。
「ニアは……負けるわけにはいかないんだから!」

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