北の開拓者たち


「……はぁ。なんとか勝てたな」
 周りではまだバトルが続いているところもあるが、大体勝敗が決まったようだ。
「いいバトルだった。ブレーンになってくれ」
 相手のトレーナーが、ステラに右手を差し出した。
「お前いいやつだな! ありがとなー」
 しばらくすると、終了の合図が響いた。まるでサッカーの試合終了のホイッスルのようだ、とステラは思った。
「はーい、皆さんバトルが終わったみたいだね! 残念ながらルーズな皆さんは、こちらから出てちょーだい! リンドウの港から、帰るための船も用意してあるからねー」
 負けたトレーナーたちは言われたとおり、専用出口へとぼとぼ向かう。ステラは、その中にエデルを探した。いないと願いながら。
 赤茶色の長い髪をしたトレーナーを見るたび、エデルの敗北を危惧したが、よく見るとどの人もエデルではない。ステラはあくまで、エデルの勝利を信じていた。
「何を見ているのですか?」
 後ろから、エデルがステラの肩に手をぽんと置いた。
「エ、エデル! よかった」
「わたくしはこんな早くに負けませんわ!」

 やがて勝者たちは、違う出口からサクハ地方の港町、リンドウシティに出た。
 リンドウは整然としたビル街で、空港もある。ステラは、外に出てすぐに飛行機の離陸を見ることが出来、いきなりいいものが見られたと喜んだ。
「さーて、そっちも上手くいったみたいだね、イロハ、カシス?」
「ええ、私たち二人で、しっかり誘導しましたわ」
 コック帽の男は、船内では見かけなかった女性と男性と話している。
「こちらのチームも、ほら!」
 濃い肌の女性が言うと、船内からはぞろぞろとトレーナーたちが出てきた。
「はい、ここで合流!」
 ステラたちの列の隣に、もう一つの列が出来た。
「西回りルート組だねー。ここからが本当のバトルってとこ? ああ、ワタシの船に乗った君たちと同じメニューをこなしているからね、フェアってことさ!」
 コック帽の青年は、段差を一段上って言った。
「改めまして、ワタシはロダン! まあこの大会の主催者ってとこ? こちらは助手の」
「カシスと」
「イロハでっす!」
 ステラもエデルも、目を疑った。まだまだこんなに相手がいるのだ。隣の列のトレーナーたちもざわついている。
「あちらの方々、西回りって言ってましたよね。西からのトレーナー……あちらも強いのでしょうね」
「ああ。……ん?」
 ステラは、いつまでも下がることのない自慢の視力で、その人を見た。赤いバンダナは、まさしく、もう一人の旅仲間――カグロのものだ。
「カグロ!」
 ステラは列を抜けようとしたが、それはエデルが止めた。だがカグロが二人に気づくのには、それで充分であった。
 カグロは、しばらく驚いた顔で昔の友人たちを見つめ、それからふっと、笑みを零した。

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