北の開拓者たち


「僕の最初のポケモンはこいつだ」
 バンジローがそう言って繰り出したポケモンは、大きな岩をしょったポケモンであった。
 エデルにとっては、ほとんど見たことがないポケモンだ。それでも、知識はある。
 イワパレス、いわざとポケモン。サクハ地方では、主に乾季に見かけることができるポケモンだ。
 そして、バトル面で一番大事なタイプ構成だが、これは虫・岩タイプとなっている。
「いきますわよ、カモネギ」
 はじめから順番が定められていたポケモンを、エデルも出す。
 相手に虫タイプがついているため、カモネギの技は不利ではないのだが、それでも苦戦を強いられるだろう。
 トレーナは、どんな声をかけることもできないし、目で合図することもできない。ここから先は、ある意味本来の意味での“ポケモンバトル”だ。

「試合開始!」
「カモッ」
 先手を取ったのはカモネギであった。
 エデルのカモネギは、紳士的な振る舞いからは予想できない、好戦的なポケモンであった。早速、イワパレス目指して長ネギを振り上げる。
  “エアカッター”であった。長ネギのおかげでリーチもあり、また急所を狙いやすい技であるが、イワパレスはほんの少し後ろに動いただけであった。
 イワパレスはその場にいたまま、岩の塊をはじけさせる。耐久力を下げるかわりに、自分の攻撃力と素早さを上げる“からでやぶる”だ。
(……となると、イワパレスが先手に)
 エデルの推測どおり、素早くなったイワパレスはカモネギより速く動いた。
 イワパレスは、これまた技を放つ――が、これもカモネギに効いているとはいえない。
 てっきり岩タイプの技を繰り出すかと思いきや、それは“シザークロス”だったのだ。
 ポケモンの意思で技が決まるバトルだ、トレーナー同士の駆け引きバトルと違って読めない。
 果たしてイワパレスは、単にこの技が好きだから使ったのか、それとも、岩タイプの技を持っていないのか。
(挑発してる、というのもあるかもしれませんわ……)
 カモネギがその次に繰り出した技は“高速移動”だった。
(カモネギは負けん気が強い……素早さを上げたところで先手は取れますけど、でも)
 こうして、また素早さではカモネギが上ということになる。
 カモネギはまたしても、“エアカッター”を繰り出した。相手は防御を犠牲にしているためか、イワパレスはさっきよりも引きずられた。
 同じくイワパレスは、また地層の一部を飛ばす。“からでやぶる”……これでは、もう力比べだ。
 そして、また“シザークロス”を繰り出す。
「カモー!」
「イワッ」
 イワパレスは、またどっしりと構える。全く表情を読むことができないが、カモネギも弱っているところを見せまいと立ち上がる。
「カモッ……カモモモモー!」
 カモネギは素早さ比べをしても意味がないと悟ったのか、次に出した技は“剣の舞”であった。
 これで攻撃力は格段に上がる。相手も防御が下がっているため、倒せる可能性が出てきた。だが、イワパレスはついに、切り札を繰り出した。
 今までに捨てた地層を拾い、それに力を込める。
(“ストーンエッジ”が来ますわ……!)
 やはり覚えていたか、と冷静に思うと同時に、身体を寒気が走った。
 カモネギの名前を叫びたい衝動を、ぐっと抑える。
「イワー!」
 イワパレスが低くうなると共に、岩の刃がカモネギを襲う。
「カモッ!」
 エデルは、思わず目元を覆った。

 エデルが目を開き、また砂埃が消えた後、カモネギとイワパレス、双方が倒れていた。
「……ストーンエッジは外れた」
 ポケモンが倒れた時には、会話が許される。
「……“ブレイブバード”ね」
 エデルのカモネギが持つ最大威力の飛行技だ。威力が高い分、自分に来る反動もばかにならない。
「イワパレス、カモネギ、ともに戦闘不能」
 審判が言って、二人はポケモンをボールに戻した。
 これでまた、試合はふりだしに戻る。
「次はこいつだ」
「いってらっしゃい、キマワリ!」
「キーマーッ」
 キマワリは元気よく飛び出す。こんな場でものうてんきなポケモンはキマワリくらいだ。
 そしてエデルは、バンジローの繰り出したポケモンに視線を移す。
 シンボラー、とりもどきポケモン。これまた、かつて通っていた学校でしか見たことがないポケモンだった。

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