四番道路の砂漠は、見れば見るほどクオン遺跡に似ていた。
 ビジネス街のヒウンと歓楽街のライモンを南北に結ぶ、否、道を阻むとでもいうべきか。それはヒウメとカゲミの間にあるクオン遺跡と同じであった。
 都市は膨張する。ベッドタウンが、「寝るための町」が拡大する。現に、四番道路の南部には、ヒウンシティの郊外住宅を建てる計画があり、既に地質調査が始まっていた。
 このままクオン遺跡も同じ道をゆけば、と想像を巡らす。
 “砂の民”の住環境は改善されるだろうか。とにかく、水の少ない地域だ。鉄筋コンクリートで覆ったところで、人々の心に変化があるだろうか。
 いや、そもそも、我々はクオン遺跡から出て、もっと住みよい地域に住みたかったのではなかったか。少なくとも、既に他界した両親までの世代は、それを強く願っていた。それなのに、カキツバタウンの住宅に住め、と言われて、抵抗してしまうのはなぜだろう。
 帰る場所は、どこなのだろう。
 びゅう、と砂塵が舞う。一度舞った砂は、風に弄ばれ、地におりたと思いきや、また足元をすくわれる。そんなことをひたすら繰り返している。

 日が沈み、砂漠は、昼までの熱が嘘のように冷たくなった。風だけはそのままだ。
 向こうにはヒウンの光、振り返ればライモンの光が見える。砂漠は眠った。そろそろ帰るか、と岩場から腰をあげたその時だった。
 ふわり、と何か白いものが舞った。ポケモンか、と一瞬思ったが、動きがポケモンでなく、人間のそれだ。白いのは髪だった。
 彼女は立ち上がった私に気づき、こちらをちらと見た。そして、目を見開く。私も、彼女の見た目にはっとした。
 目が――赤かったのだ。
 髪色だけでなく、目の色も似通った人間を見るのは、“砂の民”以外でははじめてだった。
「おい」
「……え、あの、すみません」
 私の言葉に怯えたらしく(お前のしゃべり方は棘があるから気をつけろ、とツキには言われたことがあった)、彼女はすぐに目をそらした。
「私も驚いた、お前が謝ることじゃない。こんな夜の砂漠に、何をしに来たんだ」
 それは純粋な疑問であった。人が通る、整備された道からは少し離れた、砂塵の舞う地帯だ。
「え、あの、色違いのポケモンを探そうと」
「色違い?」
「趣味、みたいなもので」
「……」
 ずい、と彼女に近寄ると、彼女の肩がはねた。随分と威圧的に映っているらしい。というか、実際自分も目つきがきつかったことだろう。
「アルビノか」
 肌の色が薄いから“砂の民”でないことは察しがついていたが、近寄って見ると、本当に夜の砂漠にはっきりと輪郭を残す薄さだった。目の赤さも、私のような茶味は帯びておらず、絵の具の赤をそのまま使ったような色だった。
 あまり言われたくはなかったのだろう、彼女は声は出さず、こくりと頷いた。
「色違いを探すと言ったな。色違いは希少種だ。それでいて、一匹見つけてしまえば、群れから目立つから逃がすことはない。……同類にでも思っているのか?」
「! そんなこと……」
「言葉では否定していても、無意識に思っているかもしれない」
 我ながらひどい言葉を吐いていると思った。彼女はうつむき黙る。
 これ以上何かを言うこともない、と判断して、「別に悪いことではない」とだけ言って、場を去った。彼女は呼び止めたかったのか、歩み寄る音だけが聞こえたが、以降は砂塵の音にかき消された。
 なびいた自分の髪も白かった。彼女に言ったことを、そのまま自分にもぶつける。
 “砂の民”という確固たるアイデンティティを持った人間だと思っていた。各地を渡り歩き、外の世界に触れ、バトルに勝ち、得られたものはなんだろう。
 何にも染まらない、それでいて主導権も感じない。それは色が無いことと同じではないか。
 知らず知らずのうちに、好きに弄ばれる、――まるで行き場のない流砂のようだ。

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140106