先手を取ったのはウルガモスであった。
「“蝶の舞”」
カグロが指示ずると、ウルガモスは優雅に舞ってみせた。これでウルガモスの能力が底上げされ、攻撃の準備が整った。
しかし。
「“悪魔のキッス”、優しく、ね」
次に素早いのはルージュラであった。ルージュラは舞を終えたウルガモスを捕まえ、熱いキスをする。
「う、うおお、キス! いいのかお前っ」
「何がだ。……眠り状態、か」
蝶の舞で気合いが入ったウルガモスは、そのキスを受けて熟睡してしまった。
「ブースター、もう一度“ばかぢから”!」
ブースターは、ルンパッパに集中攻撃する。こうもダメージが蓄積してしまっては、威力がさきほどより落ちてはいるものの耐えられなかった。
「あちゃー、ルンパ! ……お疲れ、またバトルしような」
ステラがルンパッパをボールに戻すと、続いてヤエもブースターを戻した。攻撃力が下がり、高威力技を最大のパフォーマンスで放てないからだ。
「ルリ、いくぞ」
「ロトム、お願い」
そして、サーナイトのルリと、ロトムが場に繰り出される。
もう倒されてはいけない、と、残り一体となってしまったステラは、ごくりと唾を呑んだ。ウルガモスはまだ眠っている。
「冷凍ビーム=I 今度は優しくなくていいわよ」
ミオの指示で、ルージュラの氷技がサーナイトに放たれた。
「うおおさすがの威力……」
「ロトム、“ボルトチェンジ”!」
「えっ、もう?」
ロトムはウルガモスに向かって、強いプラズマを纏って突進する。その勢いでボールに戻った。
「ヒートロトムは特殊技が強い。対してウルガモスとサーナイトは特防が高い。どうやらブースターの能力低下を回復させるために一度出しただけだったらしいな」
「なるほどな……じゃあこっちは、“挑発”!」
また眠らされては完全に動きを封じられる。そう思い、サーナイトでルージュラに挑発させた。これでルージュラは攻撃技しか放てない。
「もう一度。ブースター、出てきて!」
出てきたブースターは、さきほどよりはつらつとした表情を見せた。
そして、ウルガモスが目覚める。
「起きたか。目覚めの一発、“めざめるパワー”だ」
その技は真っ直ぐブースターに向かう。出てきて早々体力を削られ、ブースターはその場に倒れてしまった。
「そんな……タイプは」
「地面だ。ここで“フレアドライブ”でもされたら、こっちが圧倒的不利になるからな」
「ブースター……ごめんね。ありがとう」
ブースターを戻したボールを見つめ、そう言ったヤエの脚は震えていた。
その様子に気づき、どうしたの、とミオが声をかける。
「……情けない話なんですけど、その、力の差を感じてしまって」
「まだバトル中よ。それに、まだ戦えるポケモンはこちらもあちらも同じ」
「でもっ……」
迷いを含んだ瞳で、ヤエはカグロを見つめる。その表情を見て、ステラははっとした。
「そっかー! どこかで聞いたと思ったら、ヤエさん、ってひょっとして」
そこまで聞いて、カグロも気づいた。ジムリーダーとして対峙している彼女――ヤエは、元々サクハフロンティアのファクトリーヘッド候補として、ロダンに実力を見出されたトレーナーだったのだ。
「やっと気づいたの。まあ、因縁の対決だということよね」
ミオは静かに笑う。四人の中で唯一、この状況を楽しんでいる。
「ミオさん、私」
「バトルはまだ終わってないわよ」
言い放ち、ミオは挑戦者の二人を見た。カグロとステラは頷く。
最後まで弱気になることはないし、手加減もいらない。それがコトヒラのやり方、すなわちナズワタリジムのやり方だった。
ヤエの顔つきが変わった。まだ戦える。
それを見て安心したミオは、今頃コトヒラはどうしているかと、“聖域”に足を踏み込んだであろう彼を案じた。
⇒NEXT 140428