「合宿ぅ?」
「そっそ。好きでしょ、キミら」
ロダンはいとも簡単に言ってのけた。一度は驚きながらも、サクハ地方バトルフロンティアで研修生をしている六人には、とくに不満はないようだった。
「楽しみー! で、いつ?」
「一週間後かなー。みんなで船に乗って行くからね」
「やったー!」
一番喜んでいたのはニアだった。ラッセンもあまり派手に喜ばないが、顔はほころんでいる。
当日用意された船は、合宿に行くには豪華なものだった。
「ねえ、これ誰の。オーナー? それとも、エデルさん?」
「さぁね。まあそんなこと気にせず乗りな」
研修生の六人と、保護者としてロダン、それからボーイ、操舵手といった船を動かす人たちが揃い、船はリンドウ港を出た。
その日は晴天、まさに順風満帆な航海が行われるはずだった。だが、現実というものは、いつもいきなり突きつけられるものだ。
予想だにせぬ嵐が、彼らの船を襲ったのだ。
「ど、どうして!? 天気予報にはなかった」
「わ、わからんが、ひとまず舵を……うわっ!」
とんだ大波が彼らを襲ったかと思いきや、辺りが全て白く染まるほどのまぶしい光が彼らを支配し、その先はもう何も見えなくなった。
○
「ここは……?」
思考が渦巻き、成行きの途中までを思い出したロダンは、すぐにそこから起き上がった。
ざら、と掌に感覚がいく。そこは砂浜だった。振り返ると、そこに赤くかくばった山。“古代の左腕”だ。
「子供たちは」
ロダンはよろよろと立ち上がり、砂もはらわずあたりを見回す。ボーイに操舵手、大人たちは揃っていた。ただ、一番そこにいてほしい子供たちの影はどこにも見当たらなかった。
「どうして……どこに行った……!」
ロダンは落ち着きを失い、叫んだ。子供たちが元気に出てくるわけもなかった。
○
ちょうど同じころ、と言えば、語弊が生じてしまうかもしれない。だが、研修生の六人は、たった今、やわらかい芝生の上にいた。
「ここは」
沈黙を破ったのはバンジローだった。それに、ニア、トラン、ラッセンが反応する。
「助かったのか」
ラッセンが言った。立ち上がれば、眼下に見慣れた二人がいた。
「ってダイジュ、アリコ! 起きろっ!」
「んー、むにゃむにゃ」
アリコは本当に眠たそうで、それでもなんとか目を覚まそうと、自分の頬をぱちん、と叩いた。
「残念でした、俺実は起きてましたー!」
「はいはい」
ダイジュは勢いよく起き上がる。いつものことだ、とラッセンは軽くあしらった。
五人が並び、ラッセンが前に立つ。風も吹かないこの地では、ほんとうになにもかもが音を立てない。
「どうやら、僕たちは助かったらしい。でも、これからどうするか、ということで、ひとまず人か建物を探そう」
「そうか、それなら!」
ダイジュは広い草原に赤と白のモンスターボールを投げる。出てきたのは、ヤブクロンだった。
「ヤブクロンなら、町がどこかわかるかなって」
「なるほど」
アリコがそう言う間にも、ヤブクロンはあたりのにおいを嗅いでいた。そして、迷いのない足取りで草原を進む。六人はヤブクロンの後ろに続いた。
ヤブクロンと共に歩いていた時間は、長かったような、短かったような。
とにかく、一行は人里を見つけた。のどかな田舎町で、看板も立てられていた。
「“ネムタウン”……町だ!」
「やったー! でかしたぞ、ヤブクロン」
それほど疲れてはいなかった五人は、大はしゃぎで喜んだ。その中、ラッセンだけはぼうっと立っていた。
「ラッセン?」
「いや、ちょっと疲れて」
「へぇ? 体力ないねぇ」
ニアはそう言って、町の通りへ向かう。五人と一匹は急いでついて行った。
だが、その日はもう夜だった。
こんな田舎だと、もう誰も道を歩いていない。
ニアは勢いを失い、途方に暮れていた時、一つの大きな建物を見つけた。
「ん? なにあれ、……研究所だって! あそこに行ったら誰か起きてるかも!」
またニアは何も考えずそちらに向かった。五人は祈るような気持ちで、またニアに続く。
研究所は、一部屋だけ明かりがついていた。ニアは五人が追いつかぬ間に、ドアのベルを鳴らす。
「はいはーい」
その声がしただけで、研修生たちの心はほっと温まるようだった。
「はい、私がこの研究所の博士です。……おお、夢で見ていた子供たち!」
「へ?」
そんな気の抜けた声を出したのはラッセンだけであったが、他の五人にとってもその言葉は疑問だった。
「あいや、ちょうど昨夜、君たちみたいな六人の子供が訪問してくる夢を見てね」
「すごい偶然ですね」
アリコが率直に言った。彼女の堂々とした態度は、天然から来るものなのか。
「あ、あの、博士、ですよね。お願いです、僕たち、合宿するはずが、ここに来てしまって……この町に、どこか寝泊りするところはありますか?」
「うーん、観光客も来ないような町だからなぁ。でも、合宿なら、ノーチェスシティというところにユースホステルがある。そこを私が押さえてあげよう」
「本当ですか?」
「ああ。だから今日はここで眠りなさい。ただ、ちっとだけ研究室の片づけを手伝ってもらうがなぁ」
「ありがとうございます!」
ラッセンが頭を下げると、他の五人も慌てて頭を下げた。
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