Slide Show - 処女航海


 翌朝、博士に送ってもらい、ノーチェスシティのユースホステルに到着した。
 六人はチェックインし、荷物を置いて、また外に飛び出す。

 ユースホステルにいた、暇そうにしている受付嬢が、この地のいろんな町を教えてくれた。
 たくさんのポケモンを見たいトランとラッセンは、セルビルシティへ。
 とにかくバトルがしたいニアとバンジローは、タンインシティへ。
 身体を動かしたいアリコとダイジュは、ポケスロン会場のあるナハトタウンへ。
 ぴったり二人グループに別れ、夕方になったら帰ってきて、みんなでトレーニングしようと約束した。

 タンインシティへ、といっても、トレーナーにとっては町よりも道中が本番であった。ニアはカブルモを連れ、道ゆくトレーナーに勝負を挑む。
「ニアはポケモンを鍛えたいのだ! そこのトレーナー、バトルしろー」
「やあ、ってことは君もトレーナーだね? 僕はソニオ。バトルでもいいけど、交換しない? キミのカブルモと、ボクのチョボマキ」
 ソニオと名乗った少年が言うと、彼の足元からチョボマキがぬっと顔を出した。
「えっ……」
 ニアはカブルモと目を見合わせた。
 交換するということ、それは今までの仲間と別れるということでもある。
「ちょ、ちょっと考えさせてよ」
「いいよ。あっちの川辺で、他のポケモンも見せて。あ、そっちの君も見せてよ」
「ああ。僕はバンジロー……よろしく」

 いつもバトルで活躍するニアのサニーゴとゴウカザル、そしてバンジローのノクタスとシンボラーとイワパレスを見て、ソニオは感嘆の声をあげた。
「すごーい! よく育てられてるね。バトルをうけなくてよかったかも」
「で、ソニオの手持ちは?」
「僕は……まだチョボマキと、あとゴマゾウだけだよ。出ておいで、ゴマゾウ!」
 ソニオはゴマゾウを呼び、モンスターボールを投げる。出てきたゴマゾウは、恥ずかしがりのチョボマキと正反対でひとなつっこかった。すぐにニアとバンジローにすり寄る。
「ゴーマ」
「わぁ、可愛い!」
「バトルは苦手だけど、愛情はたっぷり注いでるつもりだから……」
 その様子を見たチョボマキが、少しだけ、ソニオに触れた。
「どうしたの? チョボマキ」
「いつもは恥ずかしいけど、本当はソニオのこと大好きなんじゃない?」
「そうかな? 嬉しいな……」
 ソニオは、そっと、チョボマキのカラをかぶった硬い頭を撫でた。

 しばらく川辺で語らっていたが、アクシデントは瞬間的に起こった。
 チョボマキの身体が浮いたのだ。チョボマキはソニオの後ろに隠れていたから、気づくのが少し遅れた。
「あっ、チョボマキ!」
「うっしっしー」
 ソニオが振り返った方に、少年二人と、スリーパーが立っていた。
「レーブくん、ドロムくん! なにするの、やめて!」
「ソニオのくせに、チョボマキなんてめっずらしいポケモン持ちやがってよう。今日はもらっていくからなー」
 スリーパーの技でそのままチョボマキを引き寄せ、レーブと呼ばれた少年が掴んだ。
「ひどい! ねえソニオ、どういうこと?」
「あ、あの二人、いじめっこなんだ……どうしよう、僕バトルなんて出来ない……!」
 ソニオの足元で、ゴマゾウも震えている。新米トレーナーであるソニオのポケモンにはバトルの経験がほとんどない。そうなると。
「ねえ、ニアのカブルモで戦おう! カブルモ、いい?」
「ぴぃ!」
「さぁ、いくよ。おーい、レーブ、ドロムとかいうやつらー! バトルしろバトル!」
 ニアが思いっきり叫ぶと、二人はニヤリと笑った。
「バトル? いいぜ、いってやれ、スリーパー!」
「俺もだ、ゆけ、ペルシアン!」
 ニアはバンジローに目配せする。ニアはソニオのサポートに回るため、バンジローのポケモンも必要だ。
「じゃあ、僕は。……シンボラー!」
 シンボラーはペルシアンの前についた。カブルモには、できるだけスリーパーに集中してほしいのだ。
「あのね、ニアのカブルモの技はね……」
 ニアは、技についてソニオに耳打ちする。その様子を見て、レーブは歪んだ笑みを見せる。
「スリーパーにはもうわかってるぜー。そいつ、“こらえる”を持っているな」
「ぐっ……」
 ニアは歯噛みした。スリーパーの特性“予知夢”によって、カブルモの技など筒抜けなのだ。
「とにかく、まずはあれよ!」
「えーと、カブルモ……“嫌な音”!」
 ソニオが指示を出してすぐ、ニアはソニオの両耳を塞いだ。自分やバンジローは慣れっこだが、ソニオにはきついだろうと思ったのだ。
「これでお得意の催眠術をかけようにも集中できないでしょう!」
 ニアはそう得意気に言ったが、レーブに届いているかは微妙だった。
「くっ。“念力”!」
「ぴぃっ……」
 スリーパーの技により、カブルモの身体が宙に浮く。今度は引き寄せはせず、ただカブルモの動きを封じ込めた。
「カ、カブルモォ!」
「厄介だね。スリーパーは遠距離攻撃が得意だけど、カブルモはそうじゃない。ソニオ、でもあきらめないで。ちょっとずつスリーパーとの距離を詰めていくの」
「わかった……頑張れ、カブルモ!」
 カブルモはなんとかその技に耐え、地上に着地した。
「もう一度“嫌な音”!」
 ソニオは、今度は自分で耳を塞いだ。そのまま前へ前へ、とカブルモにささやく。音に相手がひるんでいるうちに、カブルモは小さな足で少しずつ前進していった。
「へっへへ、近づいてきやがって、わかってるっつーの。スリーパー、“毒ガス”」
「やばい!」
 嫌な音が静まった時、カブルモは毒ガスにまみれてしまった。全身に毒を浴び、辛そうな表情になる。
「そ、そんな……」
「“念力”!」
「待って、“こらえる”!」
 一度攻撃をこらえられても、もうどうしようもない、と思い、ソニオは意気消沈した。だが、ニアはあきらめない。
「カブルモー! あんたまだいけるでしょ!」
「ぴぃ……」
「ほら、いけるのよ、ニアのカブルモは! 毒はじわじわダメージになるけど、一気にやられることなんてない。チョボマキはまだ取り返せてないよ!」
 ソニオは、攻撃をこらえるカブルモを見る。押されているように見えても、足はしっかり地についていた。
「……そうだね。その通りだ。……カブルモ、力を振り絞って“メガホーン”!」
 そう指示され、カブルモは地面を蹴った。あたりの草がぶわっと揺れる。そのままアッパーを決めるように、硬くなった角がスリーパーの急所をとらえた。
「やったー!」
「……くそっ。でもチョボマキは……」
「残念でした」
 そう言ったのはバンジローだった。ペルシアンなどとっくに倒したシンボラーが、スリーパーがしたのと同じように、チョボマキを引き寄せる。
「僕がシンボラーを出したのはこのためさ。全く、マルチバトルかと思いきや、シングルが二戦行われただけだったね」
「くそっ、覚えてろ!」
 二人と二匹がとんずらする中、ニアはまた何か言ってやりたい気持ちをこらえた。ソニオが、すでにチョボマキに向かっていたのだ。チョボマキが彼の腕におさまった時、シンボラーは力を弱めた。
「チョボマキ!」
「チョボ……」
 そして、チョボマキはソニオの頬にすり寄った。ニアはカブルモを見て言う。
「カブルモ、ソニオなら、カブルモのこと大切にしてくれると思う」
「ぴぃ……」
「どうかな?」
「ぴぃ!」
 カブルモは目を輝かせ、ソニオの方を見てはねる。ソニオはしゃがみ、カブルモを撫でた。彼の腕をはなれたチョボマキは、ニアがすぐさま抱き着いた。

 タンインシティのポケモンセンターに着くと、二人はトレードマシンの両側に立った。そして、ニアはカブルモ、ソニオはチョボマキの入ったモンスターボールを置く。そしてボタンを押すと、交換が始まった。
 ボールが入れ替わると、ボールはひとりでに開き、チョボマキがカブルモにカラをゆずると、二匹とも光りだした。
「進化だ」
「ソニオ、こういう知識はあるんだね。もっと積極的にバトルもしてみたらいいのに」
「カブルモはバトルが好きみたいだから、僕もしっかり練習して、強さを目指してみようと思う。ゴマゾウっていう仲間もいるしね」
「そっか、嬉しいな。……わぁ、立派になったねー!」
 ニアは、進化したアギルダーを見て抱き着こうとし、ゴンと膝をマシーンに当てた。
「あたたた……」
「ニアちゃんったら。……よろしくね、シュバルゴ」
「シュバ!」

 ソニオと別れたのは、まだお昼の時間帯だった。ニアとバンジローはお昼を済ませ、タインインシティを散策することにした。

 ⇒NEXT 130131