Slide Show - 小千世界


 ステラとカグロがサクハフロンティアに戻ったのは、行方不明になっていたフロンティア研修生たちが無事見つかった後だった。
 二人が捕まえてきた多くのポケモンを見たロダンは、満足したのか、笑みを見せた。
「ちゃんと捕まえてきたんだー! とくにこのツンベアー、いい顔してるじゃないか」
「そのツンベアーは一度バトルもしてますから」
「そうなの! ナズワタリは寒いところだから、サクハに慣れるのは大変かもしれないけど……くれぐれも室温調整だけは怠らないように」
「はい」
 寒帯に住むポケモンたちに興味を持ったのか、ニアをはじめとした子供たちが寄ってくる。ロダンは、彼らがポケモンと戯れるのを見つつタイミングを見計らって、では改めまして、咳払いした。
「オーナー、どうかしました?」
「いや、そろそろ、彼女が……こっちに着くころだ」
 しんと静まる中、彼女って誰だ、と囁いたのはダイジュだった。それを聞いたロダンは、ほんの少し口角を上げる。
 やがて、オーナー、きましたよー、という、イロハの声が聞こえた。
「ジャストタイミングだね。……ようこそいらっしゃいました、ノーラ様」
 イロハとカシスに連れられて部屋に入ってきたのは、サングラス姿で白い杖を持った、年配の女性だった。その名前と風貌から、すぐに思い至ったラッセンがロダンに問う。
「えと、あの……ノーラさんって、確かサクハ四天王の方ですよね? お会いできて光栄ですが、どういった御用で?」
「四天王、ね。その肩書はもうじき「ホールウェイライター」に変わる」
 ロダンが言うと、ノーラは微笑んだ。サングラスをかけているため、目の表情は読めない。
 ああそうか、とその場の者が形だけ納得する中、ダイジュは激昂した。
「待てよオーナー! 次のホールウェイライターになるのは俺じゃないのかよ!」
 その言葉に、研修生の他の五人もざわついた。ニア、トラン、バンジローの三人は、ブレーン候補として勝ち上がってきたステラ、カグロ、エデルに負けた。しかし、ダイジュはブレーン候補に勝ったから、バトルホールウェイのブレーン――ホールウェイライターになれるのではないかと。
「前も言ったけど、キミの強さはブレーンとしては最低水準だ。ブレーン候補として集めたトレーナーがキミに敵わないようじゃ、強さを保証されたトレーナーを連れてくるしかない、と……。チャンピオンは、ちょうど四天王の他二人も入れ替えるから良い機会だ、と快く承諾してくれたし、ノーラ様も乗り気だ」
「強さを保証されたっつっても、四天王の戦い方とブレーンの戦い方は全然違うだろ! 俺は絶対、絶対絶対認めないからな!」
 そう言い捨て、ダイジュは部屋を出る。追いかけようとしたラッセンとアリコを、すかさずイロハとカシスが引き止める。
 そっと歩み出したのはノーラだった。
「ここは私が行くところね」
「ノーラさん……お願いします」
 ロダンの言葉を受け、ノーラは部屋を出た。白い杖を床に滑らす音だけが、長く響いていた。

 ○

 その後、一度解散になった時、ロダンの周りにはニアとラッセン、少し離れてステラとカグロとエデルがいた。さっき言いそびれたんですけど、と、ニアは自身なさげに言う。
「何? ダイジュのことかい?」
「ダイジュのことはノーラさんにお任せしようと思います」
 ラッセンが言うと、大人だねぇ、とロダンは返した。
「あのね、ニアのカブルモが、合宿から帰ってきた時からいなくて」
「えっ?」
「他のみんなのポケモンはいるの。なのに、ニアのカブルモだけいないの」
 なにやらまだ問題があるようだ、と、三人で話していたステラたちも、ニアたちの会話に耳をそばだてた。
「何があったのか全然思い出せないし……どうにかならないかなぁ?」
「……夢」
「えっ」
 呟いたのはエデルだった。ニアとラッセンはエデルの方を振り向く。
「いえ。ニアたちやオーナーが本当に「ドゥリムルに見られた」のだとすれば……なにか「夢」と関わりがあるのかもしれない、と。でも、私も考えなしで」
「それだよエデルー!」
 ロダンは目を輝かせた。そしてすぐに続ける。
「この前新聞で見たんだよ。ポケモンの夢を現実と結びつける技術の実用化が始まったって!」
「えっなんですか、それ凄いですね……」
 ラッセンは素直に関心を示す。
「つまり……カブルモの夢にリンクできれば、また会うことができる……」
「どうすればいいの? ニア、可能性があるならやってみたい!」
 仲間を失ったニアは藁にもすがる思いだ。ポケモンの夢とリンクする、というと非常に漠然としているが、ロダンもこの可能性を信じることにした。
「そうだな。実用化が始まったのはイッシュ地方。サンヨウシティの研究者マコモによる開発だ。彼女はどんなトレーナーにもフレンドリーに接してくれるそうだから、一度訪ねてみたらどうだ」
「うん! そうする! ラッセン、一緒にいこ!」
 え、とラッセンはためらった。ラッセンは、合宿先タリア地方での出来事を覚えていると他の誰にも言っていない。ニアのカブルモは、タリアの住民ソニオとの交換によって、彼のもとでシュバルゴに進化し、代わりにニアのもとにはアギルダーがやって来た――ということを話すのがどうにもためらわれるからだ。
「……わかった……」
 しかし、本当に夢とリンクできるのであれば、いずれニアに全てを話さなければならない、と思い、ラッセンは承諾した。
「あ、じゃあ、オイラが連れてくよ!」
 そう言ったのはステラだった。カグロは、ステラを横目で見ながら、こいつ隙を見てリュウラセンの塔に行くつもりだな、と声に出さず思う。
「行方不明になってたんだろ? それは困るしな」
「そうだな、ステラは何やったって消息不明にはならなそうだしな。じゃあよろしく頼むよ」
 ロダンが言うと、ステラ以外の全員が笑った。
「おいおいオーナーさんよぉ……まあいいや! ニア、ラッセン、準備を整え次第すぐ向かおう」

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