Slide Show - 小千世界


 二日前とは違い、ステラ、ニア、ラッセンの三人は、一階のきれいなリビングに並んで座っていた。二階から下りてきたマコモは、モニタつきの腕時計のようなものを三つ持っていた。
「これは?」
「Cギアよ。ハイリンクに行くために必要なの。レポートから情報は登録してあるから、すぐに使えるわ」
 三人は言われたとおり、指定されたCギアを腕につけた。モニタには鮮やかなホーム画面が浮かぶ。その後もマコモの指示に従い、“Entralink”と書かれたボタンをタッチした。
「ポチっとな!」
 マコモが言うと同時に、四人の視界はぐらりと歪んだ。白い光に包まれる。他の三人はただ身を任せるが、ラッセンはその光で思い起こすものがあった。
(灯台の光だ……)
 故郷アサギシティの、そしてタリア地方の。しかし、思ってすぐ、ラッセンの意識は沈静した。

 気づけば四人は、小さな苗木の前に立っていた。
「おやマコモ。またお客かね」
 話しかけたのは、マントを着た老人だった。イッシュの中心部、力が集まる神聖な空間を守る存在なのだろうということはステラたちにもわかった。
「ポケモンと別れてしまった子がいて、ここなら会えるかもしれないと」
「なるほどなぁ。まあいい。冒険者たちよ!」
 その呼びかけに、ニアは背筋を伸ばす。
「この先はハイリンクの森。夢と現実を繋ぐ場で……一人ひとりに違う光景を見せる」
「違う光景?」
 ラッセンが訊いた時、続けたのはマコモだった。
「そう。いわば“自分の世界”。森に入るためにはニアちゃんのレポートを独立したものにしなきゃいけなくて、昨日中ずっと調整してたの。ねえおじいさん、ニアちゃんも森に入れるかしら?」
 マコモに言われ、老人はニアに一歩近づく。老人は、ニアの森に似た深緑の瞳を覗き込んで、うむ、と頷いた。
「あの」
 言いかけたのはラッセンだった。
「僕もニアの森に入れませんか」
「えっ」
 その言葉に、場の全員が驚いた。しかし、マコモはラッセンの発言の意図をすぐに読み取る。
「……やっぱり何かあるのね」
 ニアはラッセンを、ラッセンはマコモを見る。ニアがアギルダーに会い、真実を知ってしまった時、隣にいられるのは自分だけだと思ったのだ。
「レポートの相互作用を見て……そうね、ラッセンくんもニアちゃんの森に入れるかもしれない。例えば……手を繋いで同時に入る、とか」
「手っ……」
 手を繋いで、と言われ、ニアとラッセンの二人は条件反射で顔を赤らめる。それでもラッセンは続ける。
「それで入れる可能性があるんですね!」
「ちょ、ちょっとラッセン」
 そこでラッセンははじめてニアを見る。その真剣なまなざしに、ニアは何も言えなくなる。バンジローにもダイジュにもできない、研修生最年長だからできる凛とした表情。
「……わかった……」
 それを聞いて、老人はニアとラッセンの二人を森の前まで案内する。ニアは躊躇いがちにラッセンのほうへ手を伸ばした。
「いつもは突進してきたりするくせに」
「こ、こう改まると……! ってか、他の子には絶対言わないでよ、とくにトランとダイジュ……」
「誰が言うか」
 言って、ラッセンは一回り大きな手でニアの手を握った。そして、恐る恐る、しかし確実に、森への一歩を踏み出した。

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