東征記 -三人の手記から-


【古びた ノートが ある…… 読んでみますか? →はい いいえ】

 こんな記念すべき日なのだから、走り書きはやめて、格調高い文章を書きたいところだが、今の私にそれを求めるのは酷なことである。
 とにかく、ユリウス暦1XXX年4月6日、私は陸地を発見した!
 豊かな草原、美しい滝、拠点とするのに申し分ないその土地を、私は当然、ハツガタウンと名付ける。
 自分たちが開拓する陸地のはじめの拠点には、お互い「ハツガタウン」と名付けようと約束して別れた兄は元気だろうか?
 ああもう、記録はあとでいい。まずは部下のシュウメイとともに、付近に住む魔獣の調査へ乗り出すとしよう。

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 驚きの連続だった!
 見たこともないような魔獣たちが、時に争い、時に何かに守られながら、生き生きと過ごしているのだ。
 研究者であるシュウメイは目のつけどころが良く、カロス本土で見たことのない魔獣を数多発見した。
 魔獣というものは基本的に、発見した者が種族名をつけていいことになっている。シュウメイは、一番気に入った緑色の獣をハナーオと名付けた。
 これで私はハツガタウン、彼はハナーオの名付け親となったのだ!

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 航海の同行者としては、私とシュウメイを除けば七人いた。
 九人でこの大陸へ来たわけだが、未だにここの住民とは会ったことがない。
 無人の陸地なのだろうか? このような場所が、人間に目をつけられず今日まで残ったというのか?
 他の八人は「いない」と結論づけているが、私はそうは思わない。
 なぜならば、この崖だ! 垂直に伸びたこの崖は細長く、よく見てみると装飾らしきものがある。
 おそらく青銅で、じっくり目をこらして見ないとわからないものである。形からして、恐らく紋様化された魔獣だろう。
 そこで、ここには住民がいて、しかも何かの魔獣を神格化している。私はそう考える。
 ある程度北に行くと、そこからはサバンナ、それも雨季のだ。私は平気だが、偏西風で年中涼しいカロスで育った連中には地獄のようだろう。

 というわけで、船を使って、南側から探検を進めていこうと考えた。

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 ついに、ついに私はもうひとつの発見をした!
 やはりこの大陸に人間はいたのだ。
 その人間たちのいでたちといえば、いかにも東方の者といったようで、肌の色は西方の者より濃く、健康的であった。
 髪の色は、黒から赤から緑まで。
 私たちは、この者たちと近づこうと決意し、その地に上陸した。
 私がどんな言葉を使っても彼らは理解することができず、彼らの言葉も私には理解することができなかった。
 私は相棒であるメスのサボネアとともに、カロスの踊りを披露し、怪しい者ではないことを表そうとした。すると彼らも、彼らの間に伝わる(と私は推測した)、歓迎の踊りをしてみせた。
 とにかく、彼らは笑顔を見せたのだ。意思疎通ができない相手ではない。

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 私とシュウメイを除く七人は一旦ハツガへと帰ってしまったが、私たちは、しばらく彼らと生活を共にすることにした。私は彼らの言語を少しずつ解していった。
 その間、サボネアはノクタスに進化し、ひとりの住民の相棒、オスのラフレシアと恋に落ちた。
 我々人間が語らっている間に、魔獣たちも愛を深めていたようで、ある日その二匹はタマゴをあたためていた。
 間違いなくこの二匹の子供だろう、とシュウメイが言うと、よくやった! と、私は少し疲れた目をしたノクタスをゆったりと抱きしめた。タマゴは、この地で生まれた。魔獣と人間は違う。タマゴをアーロブルに持ち帰ったりでもすれば、生まれた獣はすぐに環境に適応できないかもしれない、それなら彼ら一族に、例えば長期滞在の礼として差し出すべきだろう、というシュウメイの提案を受け、私はタマゴを、ラフレシアの持ち主に渡した。
 すると彼は、タマゴを部族の酋長に差し出した。そして、ああ、酋長よ、私がともに生活ができるのはこのラフレシアだけで精一杯でございます。我々と彼との友好の証として、あなた様が持たれてはいかがですか、と申し出る。酋長は、よきことだ、孵った子供は私が育てよう、と言って、タマゴを受け取った。

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 ある日、部族のなかでも戦闘を得意とする者たちが、見知らぬ人々を連れて集落へ戻った。
 彼らは魔獣たちも戦わせるが、自分たち人間も弓矢を持って戦う。どうやら鉄などは普及していないらしい。
 今日、連れてきた彼らは誰かと訊いてみれば、今回の戦闘で獲得した捕虜だという。
 どうやらこの地での戦争とは、土地ではなく人間の捕り合いらしい。サバンナ気候の中では、土地が有り余る。農地はあれど、人手が足りない。そうなれば、他の部族の縄張りに赴いて、戦争をはじめるということだ。
 今回連れてきた人間は、この部族よりも浅黒い肌をしていたが、衣装はなかなか趣のあるものだった。
 彼らはこれからこの地の労働力となるのか、と訊くと、いえ、そうとは限りません、なぜなら、誰もかれも土地には縛られず、隣の地主のほうが待遇が良いと判断すれば、そちらへ歩いていってしまうからですと答えた。
 おかしな話だ。なんのために人の捕り合いをしているのかもこれじゃわからないし、また土地への愛着などもないのだろう。

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 彼らの言語をほとんど理解できるようになった私は、彼らのもつ伝説にすこぶる興味を持った。
 彼らの居住地といったら、自然の状態とはほど遠い。
 海岸沿いのすれすれに雪をかぶった山があるのに、山のある場所以外はかなり海抜が低く、さらに、赤い色をした崖があるのだ。
 彼らによれば、これは「気候を変えることができる魔獣」の仕業らしく、過去に先祖たちが部族同士で起こした争いに、この地で一番偉い竜が悲しみ、その子の獣二匹が、このあたりの気候をめちゃくちゃにするような争いを始めたというのだ。
 気候変動を生き抜いた部族は、ここに定住し、内陸部は恐ろしさのあまり行けないという。
 私なら行ける、あなたがたの伝説とは関係のない人間だから、と言って、内陸を指すと、だめだ、だめだ、とでも言うように彼らは私を引っ張った。
 内陸に行くかはわからないが、また会えた時はよろしく、と挨拶し、私は今までのことを報告するために、一旦カロスに帰ることにした。

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 ――城主様。私が辿り着いた地は、このようなところでございました。
 そのように始め、私はカロス地方パルファム宮殿の城主に大陸での体験を全て話した。
 ――なるほど。では、未開拓の内陸部も含め、魔獣闘技場を設置できるほどの面積はあると?
 ――もちろんでございます。開発のしがいがあるというものでしょう。魔獣を用いた戦いをスポーツ化したリーグ戦、これは東方にも広める価値がありましょう。

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 私は再び、拠点ハツガタウンに戻った。
 そして、私がカロスにいた間もずっとここに留まっていたシュウメイや仲間たちとともに、内陸部の探検を始めた。
 まず、私がここに人間が住んでいると言い切る証拠であった崖をもう一度眺めた。
 そういえば、この崖は、人里(と今は呼んでおこう)で見た赤い崖とよく似ている。あちらより随分と長く立派ではあるが。
 何か共通点があるのだろうか?

 さらに内陸に進むと、いわゆる“サバンナ”の地だ。
 わかっていたことだが、温暖な土地育ちの我々にとっては、じめじめした雨季のサバンナは厳しい。
 途中で引き返した奴もいたが、私とシュウメイはずっと進んでいった。すると、信じられない光景が我々を待っていた! サバンナの中に、カロス国中北部のごとく乾いた砂漠の地があったのだ。
 さらに、人の住居らしき場所もある。だが、どこも風化していて、もはや遺跡というべきものだった。
 はしごの多い、入り組んだ遺跡だ。かなり古く、文章の書かれた岩も風化している。それに、人里の人間たちが使っていた文字とは違うものだ。
 そのはしごの多さ、後から取り付けられたカウンターのようなものの配置を見ていると、ひょっとすると今でも居住に使われているのではないかと推測できるが、カロスよりも文明度は低い。なぜこのような、入ってしまえばすぐ迷いそうな建築にしたのか、私には理解ができず、迷わないうちに建物をあとにした。
 そしてその北には、円形の水流の上に、小さな島が浮かんでいた。
 この激しい流れも魔獣が作っているのだろうか。その流れのおかげで、島が聖なるものにも思えてくる。
 ……ここだ。
 ここが魔獣闘技場を建設するのに最もふさわしい場所に違いない!
 そう思った私は一度引き返し、闘技場建設の準備をはじめた。

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