ヤエキでパソコンが使える数少ない子供とかいって、
 調子乗って都会に出て、それから僕は何を見た?
 それまで見たものって、一体何だった?

 何かのために、誰かのために戦ったことがない僕が、
 急に、故郷を守るため、故郷の繁栄に戦うなんて、ありえることなのか?
 ……あの時代、大統一時代では、それがありえてしまったのだ。
 まあ、戦ったのは、ほとんど僕じゃなくて、彼女なんだけど。

(日記より)

 統一サクハへの道
 一の記憶:「道を踏み外してしまった気がする」


 ヤエキの朝は遅い。
 なぜなら、すぐ東にそびえる崖が、朝日を遮るからである。
 そもそも、ヤエキという土地名も、「お寝坊さん」を意味する古い言葉だ。

   その土地に住む少年カラジも例に漏れず、朝は遅めに起きる。
「ふあ〜あ。さて、ネットっと」
 十歳の誕生日にもらったノートパソコンを開き、少し大きめのボタンを押す。すると、そいつは唸りだす。
 パジャマのボタンを外し、シャツとパーカーを着ている間にも、パソコンは立ち上がる。カラジは、マウスを動かし、ブラウザのアイコンをダブルクリックした。
 トップニュースに、カロス東部自治領――このように呼ばれる地域は、一応「サクハ」という名前がついているがあまり定着していない――の新着記事が流れ込む。
「東のほうは大変だなー。暴動は日常茶飯事だわ、街中にポケモン大量に逃がすわ、行方不明者は出るわ? 同じこのあたりだとは思えないな」
「カラジ、また朝からパソコン? あなたは勉強ができるからまだいいけど、一体何が楽しいのやら」
 起きた母が、画面をちらりと見て言った。
「そりゃ、見えないところが見えるのが楽しいんじゃないか、ほら見てよ、今日も」
「うわっ、こっわーい。こんなの見てて大丈夫なの? あんた」
「うっさいなー。大人はみんな、ちょっと触っただけで嫌悪感が出て、そんなこと言い出すんだから。慣れたら楽しいのにな」
 あ、そう、と言って、母は台所へ行った。

 しかし、確かに今日のトップニュースは見ているだけで画面酔いがしそうだ。
 インターネットならではの、規制のゆるい写真たち。全てをしっかり見る気にはなれない。
 カラジは、他にもっと面白いコンテンツはないかと、そのサイトを見て回ることにした。

「これは……ヒウメパソコンクラブ? この写真の子たち、僕と同年代っぽいな」
 そのバナーに引かれ、クリックする。新しいウィンドウが開く間、カラジはパジャマを畳んだ。
 やがて、パステルカラーと、見たことがないポケモンに彩られたトップが表示された。カラジは本文を読む。

 情報を受信、そして発信!
 ヒウメならではの環境で、一緒にパソコンしようじゃないか!

「面白そう……」
 さらにそのページには地図が二つ載っており、一方はヒウメの詳細地図、一方は東部自治領全域の地図であった。
 ヒウメは、ここから東にずっと行ったところ。
 とはいえ、ヒウメも、トップニュースでよく見かける地域だ。危なくはないのだろうか。

「んー、でも、実際に見るのも楽しいかも。僕が暴動を起こさなければいいんだ。そんなことしないし巻き込まれない。……エネコ!」
「ニャオウ!」
 こうなったら、行くしかない。
 パソコンだって、一人より二人、二人より三人だ。

 ここで初めて、カラジは自治領の東の地域を見ようとしたのである。
 見ようとはしたが、知ろうとするのはもう少し後であるし、東といっても、さらに東がある。
 だが、もちろんこの時のカラジにはそんなことは知るよしもなかった。

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