持つ物は全て持った。
 食料から水、それから弟のエネコ。
 エネコは、危険が訪れた時のために、モンスターボールなるものに入れようと考えた。
 そこで、近くのフレンドリィショップでボールを一つ買った。十個買えばおまけがつくと言われたが、それは断った。

 大統一時代は未だ顔を出さない

 一週間ほどで、ヒウメにはたどり着いた。
 カラジはできるだけ、平穏な土地を選んで進んだ。全てはノートパソコンのお陰だ。
 だが、それゆえに、インターネットで連日報道されている風景を目の当たりにすることはできず、カラジは少し物足りなくもあった。

 南北に走るヒウメ大通りと、東西に走るメディアストリートの交差点、そこに、ヒウメパソコンクラブは拠点を構えていた。
 通りの名前を何度も確認したカラジは、目の前の扉に視線を移した。
 まさに、開発に取り残された死角。この町は、はじめてサクハに航海、定住したカロス系移民の子孫――カラジの家族もこの系統である――が多く住んでいるというが、ここに定住をはじめたカロス人が一番はじめに建てたものの中でこれだけが今も残っている、という印象を受ける。
 もっと中心街から外れた通りにはもっとあるのかもしれないが、少なくともここでは、だ。
 カラジは一度深呼吸をして、おんぼろの扉を三回、ノックした。

 階下からやんちゃな子供の足音が聞こえてくる。
「お客さんだー! 入部? 入部?」
「えっ」
「まあいいや、ここじゃなんだし、下の部屋に来てよ」
 迎えに来たのは、黄土色の髪に青い目の少女と、長身で赤いカールヘアーの少年だった。
 少年はそのままカラジの腕を引き、扉を閉めて階段を駆け下りる。中は薄暗く、明かりも必要最低限に留めている。
 少年が椅子を引き、カラジと少女を座らせた。少年はそのまま、棚に向かう。
「ようこそ、ヒウメパソコンクラブへ! いやー、まさかあんなんで人が来るとはね」
「驚きだよねー、なかなかやるねえ」
 少女は少年に向かってそう言った。
「あ、あの、他のメンバーは今日はいないの?」
「ああ、そもそもメンバーは俺たちだけだけど」
「え……でも、サイトには」
「あれはねー、こいつが、ネットにあふれる顔画像を適当に合わせて作った、ありもしない集合写真なんだよー」
「なんだって……」
 この女の子が、とカラジが少女を見つめると、彼女はしたり顔で見つめ返してくる。少年はココアを用意して、テーブルに置いた。
「さて。ラップトップもちゃんと持ってきてるし、君がサイトを見て来たことは確かみたいだね。名前は何ていうの?」
「僕? ……カラジ。君たちは?」
 カラジがそう言うと、少女が立ち上がり、少年の隣についた。
「オレは頭脳明晰なリーダー、チャービルッ! ちなみに年齢十四歳!」
「私は、隣の人がこう言ってるけど実はドジな人だから補佐役、ユッカー! もうすぐ十歳になるよ!」
 少女ユッカの言葉に、なんだそれ、とチャービルは突っ込みを入れた。
「君も自己紹介、考えといてね。まあオレたちもはじめてやったわけだけどさ」
「は、はぁ……」

 そう返したものの、悪い人たちではなさそうだ、とカラジは思った。

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