「危険分子か」
「わからない」
 そこから動かず、耳を澄まして、二人の声を聞く。どうやら男女二人組のようだ。

 知らない世界の悲惨な住民

「チャー……ビル?」
「とてもあいつらがポワルンを持ってるとは思えねーなぁ……」
「ポワルン!?」
 男性が反応した。
 よろり、と二人は立ち上がる。赤茶色の目をした二人の髪は、年齢からではなく明らかに地毛であろう、銀色だった。
「今ポワルンと言ったな」
「てか、私見覚えあんだけど。右の子がこの前さらい間違えた子でー、その隣の子がポワルン奪った子じゃん?」
 女性が言った。かなり大人びているが、カラジにはチャービルよりは年下に見えた。
「なんで一緒にいんの?」
 同一の人物に狙われていたとは。ユッカとアフラは目を見合わせた。
「あっ……あなたたちがポワルンを? ひどいですよ……」
 何も言えないでいる少女二人のかわりに、カラジが言った。
「カラジッ」チャービルが制する。
「ふーん。なんで?」
「えっ」
「なんでひどいと思うの? 私たちをなっがーい間嫌って、住みにくい環境に追いやって、それでいて移民どもの甘いミツをすってる多数派連中のがよっぽどひどくない?」
 女性は冷たく言い放った。
「でもっ、だからって人のポケモンを盗るなんて」
「みんなやってる。なに、全員逮捕すんの? そりゃえらいわねー。ちょっと有能なポケモン見つけたら、ちゃちゃっと盗って、私たちの目標のために使う。なんにも悪いことないと思うんだけど」
「悪いですよ! なんなんですか、目標って」
「エアームド!」
 女性が声をあげると、鋼の翼を持つポケモン、エアームドが砂塵の向こうから飛来し、カラジの目の前にくちばしを突きつけた。
「いいよ、教えてやる」
 次は男性が、なめらかな物言いで話しはじめた。
「当然得られるだろう権利を得ること、それが俺たちの目的だ。アフカスの民や移民連中による“なだめ”なんか、意味をなさない。この土地がどう転がろうが、少数派はずっと日陰、ずっと闇の中で生きることになる。俺はそんなもんごめんだ」
「なんで! 私だって少数派よ。あなたたちとは違う部族だけど」
 アフラが声を震わせつつも反論した。
「お前ら天の民は決まった土地をはなから持たない部族だろ。見ろよ、この砂。生きられるかっての。それに最近じゃ、アフカスの民の遺跡を守ろうっていう考古学かぶれの奴まで出てきた。ひっこんでろっつーの」
 男は、より瞳をぎらぎらと輝かせる。その場にいる誰もが本気だとわかった。
「アフラ、それ本当?」
「……本当に彼らの土地がここならば、本当、ってことになるわ」
「……」
 四人は気を落とす。だが、長い沈黙ののち、チャービルが言った。
「それじゃ、オレはあなたたちのことも考慮します。オレたちが目指してるのは、誰かにとって不利になるような世界じゃない」
「ハッ、きれいごとだね。君ぐらいの年齢になっても、そんなことが言えるのか」
「ギリギリラインよ」
 男は舌打ちした。チャービルはたまらなくなって、タネボーに指示をした。
「頭突き!」
「カッ!」
 タネボーの技はうまくエアームドにヒットしたが、大したダメージとはならなかった。
「へぇ、そっちも本気ってことね。エアームド、一旦戻って!」
 女性がそう言うと、エアームドはタネボーを睨みつつも主のもとへ戻った。
「パレード!」
 男性もポケモンを呼ぶ。砂を飛び散らせて現れたポケモンは、ドンファンだった。
「ドンファンのパレード。強いぞ」
 彼はニヤリと笑う。
「これで二対二だな」
「ああ」
 チャービルが答えるが、カラジは戸惑った。
「おいチャービル……二対二って、もしかして」
「もちろん、エネコもバトルするだろ?」

「ええーっ!?」

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