「ねーねー、最近考古学者気取りで有名なシヨウカ博士ー」
「なんだ、お前は」
「君の幼なじみの知り合い」
「……」
「クオン遺跡のどこかに、伝説とやらを呼び出せる碑文があるんでしょ。どこにあるのか教えてよぉ」
「なぜ、そんなことを」
「あん人に教えるためさぁ。そんで、あん人を、そしてこの土地をなんとかするためにはボクの存在が必要不可欠」
「どういうことだ」
「わからない? それじゃあ教えてあげるよぉ。理由はね……」
白い黒幕
「エネコが覚えてる技は……あ、まず、あれがある」
「あれ?」
「“ねこだまし”」
「みゃーお!」
チャービルの指示とはいえ、エネコは従った。
ドンファンの前で、前脚をパチンと叩き合わせる。ドンファンは驚きひるんでしまった。
「ナーイス! タネボー、“タネマシンガン”」
次は自分のポケモンに指示をする。だが、エアームドは一歩も動かない。
「なっ」
「効かないわ」
タネはエアームドの強靭な翼の前では、コンと当たるだけで何の効果もなかった。
「エアームド、“鋼の翼”」
エアームドは風を、砂を穿ち、タネボーに向かった。
「カーカッ!」
「タネボー!」
タネボーは吹き飛ぶ。
「大丈夫か、タネボー」
そのまま、砂にずしゃんと沈む。
「パレード、“穴を掘る”」
間を置かずに、男が指示した。ひるみから立ち直ったドンファンは砂の中をすいすい潜る。標的はエネコだ。
砂だから地面も揺れるのではと思ったが、砂塵のせいでドンファンがどこにいるのか全くわからなくなってしまった。
「ど、どうすれば……」
無理だ、到底かなわない。
ずたずたにされたエネコが脳裏に浮かび、カラジは身震いした。
「フライゴン、“砂嵐”」
砂の上にくずおれそうだった時、低く抑えられたような声が聞こえた。
深緑色の髪を低いところで一つにまとめ、マントを着た人物のポケモンが、地面をえぐるように砂を起こす。
「ドク! くそってめぇ、まだ……」
砂嵐はエネコをも飛ばしたが、エネコはチャービルがしっかりとキャッチした。
ドンファンも砂嵐に晒され、吹き飛ばされぬよう必死でもろい地面に爪を食い込ませている。
「ふう……さっきとは別の用、そこのお嬢さんにポワルンを返しに来ただけだ」
その言葉に、アフラははっとした。マントの下から、モンスターボールをちらつかせる。影になっていても、ボールにしずくのシールが何枚か貼られていることは視認できた。。
「言ったはずだ、私にも考えがある」
「信じられるか。アフカスの民のと移民のハーフのくせにっ……パレード!」
「ッファーン!」
「やめっ……」
気付いた時には、カラジはその場に突っ込んでいた。
フライゴンは反応が遅れる。カラジが単身で乗り込んだところで、ドクと呼ばれた男を助けることなんて到底できない。
チャービルはポケットから一つの道具を出した。
「それを今使ったら……」
ユッカが不安がる。
「まだポワルンは……それにエネコも」
「飛んでけー!」
アフラの言うことも無視し、チャービルはそれを飛ばした。
「あれはっ……エアームド!」
エアームドは、飛んできたエネコを翼で撃った。だが、それはエネコではなかったのだ。
それは、ただのアイテム。それも、エネコにそっくりに作られた。
「なっ、これは、エネコのシッポ!」
「残念でしたー、この前売ってもらったんだよ!」
敵の二人ははっとした。そのシッポを売る者に心当たりがあったのだ。
「ふう。一ターン稼げれば充分、カラジ! エネコは俺が面倒見るから、お前はポワルンとその人と逃げろ!」
「え、ええっ!? な、そんな、この人とぉ!?」
「アフラ、確かにあのボール……なんだな」
「うん……あのシールの貼り方はまさしく……よ」
「だったら、今はあきらめてくれ。今はこうするしかない……」
まだポワルンには会えない。アフラはがっかりしたが、チャービルの方針に反対はしなかった。
「エネコに悪いことはしない。オレを信じるなら逃げてくれないか、エネコのシッポの効果はまだある! オレはお前を信じてる!」
「はぁー、どいつもこいつも、信じてるだのなんだの……」
デイジはそう言ったが、カラジとドクは北に逃げた。シッポの力に守られてか、砂塵がのぼる。二人とフライゴンの姿は、あっという間に消えてしまった。
「待て!」
「トリカ、やめておけ。体制を立て直すぞ」
「でも」
「別にポワルンについて、俺たちに大きなデメリットはないからな。碑文も盗まれはしなかった」
「……わかった」
そのまま、少数派の二人は飛び去った。
「女の人は、トリカって名前なのね」
「そうだな、覚えとこう。カラジ……頼むぞ」
チャービルはそう言って、不安がるエネコをそっと撫でた。
<三の記憶・了>
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