アフカス信仰。
 それは戦いと植民地支配を経て、主要な信仰層であるアフカスの民が忘れた存在であった。
 目に見えるものを求めるようになり、どんな状況になっても
 姿を見せないアフカスに、希望を失っていったのだ。
 しかし――……

 (後世の歴史書より)

 統一サクハへの道
 四の記憶:「伝説という存在の輪郭が僕らをなぞった」


「南北ラインだな」
 イゲタニ、ホウソノ、カゲミをつなぐルート8のカゲミ寄りにいた、浅黒い肌をした二人組のうち、背が高い少年が言った。
「ヒウメ、クオン、カゲミ、ここが繋がらないから」
「……かっこつけー。なに、お兄ちゃん。びびってんの?」
「キュラス……逆にお前は平気なのか」
「ふんっ」
 どうやらこの二人は兄妹関係らしい。キュラスと呼ばれた、まだかなり幼い少女が妹で、ボリュームのある紫色の髪をツインテールにしている。
「っ……オレがびびってるわけねーだろ! さーて行くぞ……うわっ!」
 少年が勢いよく踏み出そうとすると、その場が湿地であるにも関わらず、砂塵が目に入ってきた。
「あーあ、お兄ちゃんがびびってないとか言うから……」
「お前やっぱり」
「びびってるに決まってんじゃん」
「全く可愛くねえなぁ……」
 目をしばたたかせてわざと涙を流し、砂を流す。また視界が明瞭になった時、そこにはひどく汗を流した二人と一匹のフライゴンがいた。
「なんなんですか、あのカゲミシティって町は……ヒウメよりひどいんじゃないですか……ゼエ、ゼエ、エネコのシッポの、効果が、切れたとたん、これですよ……ゼエ」
「お前、この程度で疲れてていいのか……私はもういい大人なんだぞ……ゼエ」
 フライゴンはやがて呼吸を整えたが、砂をまき散らしたこの疲れている二人は、どうもうまく呼吸できないらしい。
「どっどうしたんだよ!」
 思わず少年が言う。二人とも年上であったが、そんなことは気にしていられない。
「お兄ちゃん……でも、この人たち「だいさんいみん」じゃないよ……」
「お前は何でも口に出すな……」
「お兄ちゃんだって同じでしょ」
「心配してくれてありがとう、どうか兄妹喧嘩はやめてくれ」
 なんとか周りの存在に気を配れるようになった、緑の髪をした男――もちろんドクである――が言った。
 その渇いた声を聞いて、少年も心を痛める。
「ねえ二人とも、ここを少し行ったところに、きれいな水が流れてる川があるんだ。そのへんにはポケモンもいないし、人間も飲めるよ」
 ついてきて、と言って、少年はキュラスの手を引く。キュラスは、ドクたちに目配せした。彼らも黙って着いて来る。
 砂地とは全く質の違う、湿潤な地を進むと、熱帯雨林の緑を映す透き通った川が視界を横切った。
「ここ。ほんとはもっと上流がいいんだろうけど、まあここで。疲れてそうだし……」
「ありがとう」
 ドクはまず、手と顔を洗う。カラジは、手を洗うのもそこそこにして、水をがばがば飲み始めた。
「どうしたんだよ、あんなところにいきなり……」
 そろそろ二人も喉が潤った頃だろう、と考えて、少年が言った。
「ああ、ちょっと、カゲミの連中に」
「やっぱすっごく危険なところなのか……オレポケモン持ってないし、やめといたほうがいいかな」
「えっ、ポケモン持ってないのにカゲミに!? それは危険すぎる」
 カラジが口をはさむ。
「オレたち、とんでもないことやろうとしてた……?」
「みたいだね」
 キュラスが短く返す。
「これじゃ、パソコンを使うこともできないな」
「パソコン?」
 ドクのつぶやきに、カラジが疑問符を浮かべる。
「ああ、ある用事でな、そろそろ、と思って。カゲミのポケモンセンターで受け取ろうと思っていたんだが」
「パソコンなら、オレの町にもあるぞ」
 その会話に、少年が口を挟む。
「えっ、君、ホームタウンは?」
「イゲタニってとこ。知ってる? あと、君じゃなくてラナンな」
「パソコンさえあればなんとかなる……! ラナン、それは本当にパソコンなんだね?」
「うん。こういうのでしょ、ぐあーって動かして、カタカターって打って」
 ラナンが表しているものが、マウス操作とタイピングだとわかると、ドクはいてもたってもいられなかった。
「ちょっと、それ貸してくれないか!」
「貸して……っていうか、町のものだけど。まあいいや、オレが大人たちに話してやらぁ」
 ラナンは、自分の胸をぽんと叩いて、したり顔で言った。
「ありがとう! 早速……うっ」
「おいおい、めっちゃ疲れてるじゃねーか。大丈夫か?」
「あ、ああ、大丈夫だ……案内してくれ」

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