素晴らしいつやを持つ蛇のポケモンが、持ち主の女性の前をずんずん進む。
 そのポケモン――ハブネークは、よく知る仲間の到着を知ってそちらを見た。
「オモトーさん!」
 ハブネークを見てそれを悟った女性も、その仲間を呼んだ。
 サーナイトのテレポートとともに現れた白髭の老人オモトーは、静かに着地する。
「今日は帽子被ってないのね」
「あまり目立ってはいけんからな。ライラックは今からどこかへ?」
「そうなの、急用で。私がカゲミを離れるなんてあまりしたくないんだけど、……とにかく行かなきゃ!」
「おい、じゃあテレポートを使えば」
「できないのよ! 行ったことない場所だから。カゲミはまだ荒れてる、できればモミアゲもここに呼んでほしいわ!」
 ライラックはそれだけ言って、ハブネークに飛び乗る。ハブネークは砂の中を、主人を乗せて猛進していった。

 表の黒幕

 hiumepcclub。
 こんなドメインでメールを送られてしまっては、短いメールでも応えないわけにはいかない。
 あのニュースサイトのことは前からよく知っていた。稚拙な文章が鼻につくことはあるが、よく真実を捉えたニュース群には、励まされたところも多くある。
「ライラックー!」
 砂の世界の上から、声が聞こえてきた。
「なんだ、ヒウメに向かうのか?」
「って、ドク!? なんかガキも乗ってるみたいだけど……」
 そこには、何度か会って、今後のサクハについて話し合ったマントの男性、ドクがいたのだ。フライゴンからは降りずに、ドクは話を続ける。
「ライラックもヒウメに向かってるのか?」
「ええ。それが……って危ない!」
 突如何かを投げられ、砂に埋もれないようライラックはバランスを崩しながらもキャッチする。 「そのボール、本当は私が持っておきたかったのだが……頼んだ!」
「頼んだって何よ!」
 ドクはそれには返事をせず、そのまま飛び去る。エキゾチックなしずくのシールが貼られたモンスターボールを、ライラックはバランスを崩しながらも受け取った。

「ハブネーク、蛇睨み!」
 大部屋に新たな登場人物――鋭い女性の声が響いたのは、アフラがメールを送って十分も経たぬ時であった。
 ハブネークの強い眼光が、その場にいたスイバ、チャービル、ユッカ、そしてドクケイルの身体に痺れを走らせた。 「なーに、スイバじゃなーい。あんたの声のおかげで見つかったわ……試験なしで入った、汚職ジムリーダーさんっ」
「こいつっ……! あとでどうなるか……」
「あとで、なんてないのよ。やっつけちゃいましょうか? 毒使いジムリーダー、ライラックがぁ……」
「……くっ!」
 ライラックが不敵に笑う中、スイバはただ痺れに耐えた。
「おい、ライラック、何をしている」
 またしても背後に登場人物か、とライラックは振り向く。
「え……」
 その男は、隣にいたボーマンダに、ただ「壊せ」とだけ指示した。
 ボーマンダは、前足を踏み込み、地下に向かって“だいもんじ”を放った。
 容赦なく燃え盛る炎に、その場にいた者全員が咳き込む。

 ライラックが目をこすった後、ヒウメパソコンクラブの建物は瓦礫と化していた。
「ひっ」
 ハブネークも頭は埋まってしまっている。美しく輝く身体にも、すすがはりついている。
「ハブネーク!」
 ライラックは顔をゆがめながらも、その自慢のポケモンの身体を引っ張る。
「ラショウっ……なんてことを!」
「……チャンピオンに呼び捨てなんて、お前も容赦がないな」
 そう言われ、ライラックはきっと睨む。冷徹な視線を向ける、この地のチャンピオンを名乗る男。それがラショウだ。ライラックも今日で会うのは二度目だ。
「スイバは使えなかった、だから始末したまでだ。お前は巻き込まれなくてよかったな」
「あっ……待ちなさいよ!」
 ラショウはそのままボーマンダと飛び去る。ライラックは追うのをあきらめ、振り向いた。今も炎は燃え続けている。この中に子供たちが埋まっているなんて、と思うとぞっとした。

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