「あれ書き込んだの……お前だろ」
「そっ」
 もう抵抗する力もないスイバに、ライラックは答えた。
「勘のいいやつならわかるのよね、私の記事だって。最後にメールフォームもつけておいたしね。これでカゲミに人が集まる。こっちはこっちで綿密に計画練ってやってんの。邪魔はさせないわ」
「くっ……」
「そーいやあんた、ラショウに始末されたわよね? 仲間になってもいいのよ」
「誰がなるか……」
 ジムリーダー二人のやりとりを聞きながらも、チャービルはあたりを見回した。ほんとうにヒウメの人々はカゲミに行ってしまったらしい。
「……ああ、エネコ!」
 チャービルは目をしばたかせた。エネコが、ヒウメ南のはげ山を登っているのだ。
「どうしたんだよエネコ!」
「え、あのエネコ、あんたのポケモンじゃないんでしょ?」
「そうですけど……友人のポケモンなんです! 今友人はドクさんと一緒なんですけど」
「あら、じゃあ追う必要はないわ。ドクが計画の通り動いていたらね」
「それってどういう……」

 すぐそばの真実

   強い海風の中、フライゴンは左旋回した。
「飛び移るぞ!」ドクが言った。
「ええっ」
「あのホエルオーに。捕まれ!」
 確かに眼下にホエルオーが見えるが、それは無茶というものではなかろうか。それでも、ドクの表情を見る限り、ノーとは言えない状況だ。カラジは、言われたとおりドクに捕まった。
「ありがとな、フライゴン。お前がいなければできなかったことがたくさんあったよ。もうトギリのもとへ戻れ。トギリはカゲミにいる」
 その言葉を聞いたフライゴンが身体を傾け、ふわりと二人は跳躍した。

 ものすごい勢いで落下していく中、カラジはその柔らかさに気がついた。
 まるでその昔、大好きな母に抱きしめられた時のような……。
 これはドクのものなのか、そうなるとドクは……

 考えているうちに、ホエルオーの上に落ちた。ぽんと音がなり、二人は跳ねた。
「頼むぞ、ハンちゃん」
「ホエーー」
 どうやらトレーナーのポケモンらしいホエルオーは、深く息を吸って、リンドウの海にざぶんと潜った。

 ホエルオーの技、“ダイビング”。
 この技が使われている間は、ポケモンにつかまった人も息をすることができるのだ。
 これで海底へ向かう、とドクが言った時、カラジは気になったことを口にした。
「あ、あの、ドクさん……さっき」
 言いながら、相手の秘密を明かす緊張で頬が紅潮するのがわかる。
「さすがにばれたか……」
「えっ、じゃあやっぱり」
 ドクはカラジに苦笑いし、マントを外す。
 ふぁさ、と長い髪が流れる。はじめて、影になっていない瞳があらわれる。そして、その下の体つきは、どう見ても。
「ラドナ・ドク・ラショウ。サクハの統一を目指す者よ」
 一変、口調まで女性的になったドクもといラドナは、絶え間なくゆらめく海の中で、今までよりも美しく見えた。

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