階下にたどり着いた。
 その場には、カラジとエネコロロしかいなかった。ホウセンは、鍵をかけに帰るとか言って、場を去ってしまったのだ。
 アフカスならば、アカガネ山の壁を突き破れるだろう、と助言をして。
 階下の広間に唯一あった、アカガネ山を思わせる三つの突起を見つめながら、カラジはゆっくりと、その名を呼んだ。

 統一サクハへの道
 六の記憶:「今、そして未来のために――アフカスとサクハに寄せて」


「……アフカス」
 その声に、もぞり、となにかが動く。しかし、また場が沈静化する。
「アフカス!」
 諦めず、カラジはこぶしを握りしめて叫んだ。
 今度はアカガネ山を思わせる三つの突起がせり上がり、まず二つの眼が見えた。突起はポケモンのひれだったのだ。
「フォーーーッ……」

 そのポケモンは大きな竜の形をしていた。
 薄ベージュのしなやかな身体から伸びる腕は右腕のみであった。
 左腕がないかわりに、左肩にあたる部分は雲のようなもので覆われている。
 尻尾には三つの光り輝くものがとび出ていた。
 そして何より瞳――まるで母のように穏やかな眼差しで、カラジをまっすぐ見つめた。

 よく来たね、移民の子よ。私のことを信じてくれてありがとう。
 そんな声が、脳裏に響いてくる。
「それで、アフカス」
 わかっている、と言って、アフカスは身をかがめた。そしてまた言う。乗れ、と。
 アフカスにカラジとエネコロロが乗ると、アフカスは持ち前の神速で、アカガネ山を突き破った。

 ちょうどホウセンが最深部への入り口に鍵をかけた時だった。響く轟音の中、ホウセンはアフカスの目覚めを確信した。

 カゲミは混沌と沈黙を繰り返していた。この地に生きるほとんどの人間が集まっていることだろう。
 一つ高くなった丘で、二人のトレーナーが戦っていた。
「だから言っただろう、お前じゃ私には敵わない」
「……ドクとか言ったな」
 ドクの出したコータスが、ラショウのメタグロスを打ち負かしたのだ。
 あのコータスめちゃくちゃ強いぞ、と観衆はただ感心した。
「目的はなんだ?」
「ただひとつ、チャンピオンだ」
「チャンピオンは世襲だ、俺と血のつながった者しかなることはできない」
「そうか、それなら、私はその条件を満たしているな」
 ドクは、余裕の微笑みを見せた。
「どういうことだ!」
 ドクはひもを外し、そのままマントを捨ててみせる。
「こういうことだ」
 その場が一気にざわついた。
 その身体のライン、どう見ても女性だ。
「お前っ……」
「ああ、ラドナ・ドク・ラショウ。従妹だよ」
「女が……それもアフカスの民との子供が、チャンピオンになれるとでも思ってんのか!」
 ラショウの一声で、様々な野次が飛んだ。ラドナを攻撃する者もいれば、ラショウを攻撃する者もいる。
 また高台にのぼり、ラドナを引きずり下ろそうとする者までいた。
「モミアゲ! 行くよっ!」
「言われなくても!」
 ライラックと、モミアゲと言われた男――リンドウシティジムリーダーのワコウ――が駆け出し、ラドナを守ろうとする。
 ドクが女性だったと知り、チャービルは動揺したが、今は少し後ろから様子を撮影するしかなかった。シャッター音はおさまらない。
「遅いか!」
 ライラックとワコウは、ラドナを見失ってしまった。多くの人に囲まれ、もうラドナも、ラショウも、どこにいるのかわからない。
 その時だった。

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