ごう、と音がして、アカガネ山が突き破られたのだ。
「な、なんだ?」
「爆破か!?」
 観衆は動きを止めた。
「ラドナさんっ!」
 その中で、音量にしては情けない声が響く。
 あまりの事態から、全てを忘れ混沌の中を突っ込んでいったのは、ラドナより明るい緑の髪を乱したカラジであった。

 サクハ統一宣言

   アフカスの起こした赤い煙により、ラドナとカラジは一瞬、姿を消した。視界を失った人々はちりぢりになり、カラジはラドナの手を引いてもうひとつ高い丘に登る。
 煙が完全に消えた時、ラドナは天を指差した。
 全ての者の視線が、二人の背後に現れたポケモン――アフカスに注がれた。
「アフカスだ……」
 先住民の一部族――アフカスの民の集まりからそんな声がもれる。
「アフカスだって?」
「そんな、ただの伝説では」
 アフカスのことは、一部の教養ある移民も知っている。彼らを見て、ラドナは言った。
「アフカス――過去の争いで、自らの左腕を失ったと信じられているポケモン。そしてその後に豊かな土壌をもたらしたともされるポケモン……アフカスは特定の民族ではなく、サクハの大地と一体の存在よ」
 さっきまでとは一転、女性的な口調となったラドナの力強い言葉を、人々は静かに聞いていた。もっとも、彼女が話している間にも、彼らはアフカスを見つめていたわけだが。
「互いを尊重することなく争いを続け、直轄植民地から自治領になった今もこの体たらく。でも……今ならまだ間に合うわ」
「お前がチャンピオンになったら、パソコン通信は」
「大丈夫、それはカラジに任せる」
 そう言って、ラドナはカラジの肩を寄せる。
「え……ええっ!?」
「パソコンを使って情報収集・発信して、さらにクオン遺跡で戦い、アフカスまでも呼んでみせた。技術も勇気もある、カラジこそが適任だわ」
「は、はぁ」
「待て、ドク!」
 沈黙を破るように、一人の少年が渇いた声を張り上げた。
「デイジ」
「俺は絶対認めない」
「ジムリーダーは先住民からも選ぶわ」
「だからそれが」
「おーいラドナ、俺は賛成だ!」
「あっしも!」
「おいらも!」
 デイジの抗議を消すように、人々から声があがる。
「すごいな、アフカスの力……か?」
 チャービルが言った。肉眼でアフカスを見ると、それだけで心が洗われるような気持ちになる。
 写真に残したところで本物には到底敵わないとわかりつつも、またシャッターを回す。
「左腕を失ったこと、あのポケモンがこの土地と深く結びついていること……アフカスの左肩を見ればわかるわ。私はこれからもずっとポワルンと一緒だけど、大地を往く時は、きっとアフカスのことを思うのでしょう」
 アフラが言った。
「ポワワ……」
「ポワルンだって、なんだかかしこまってるみたいだしね」

 カラジも後ろを向き、アフカスの瞳を見つめる。
 アフカスの瞳にはありとあらゆるものが映る。カラジの顔、細かい表情、そして今まで歩んできた道。
 ヤエキを出たあの日からは想像できないような日々が、カラジを待っていた。それらを越えて今、ここにいる。
 エネコロロに先を越されてしまったが、自分も少しは大人になれたのだろうか。ここにいてもいいのだろうか。
 アフカスは数秒、まぶたを閉じる。声は響かず、ただアフカスはうなずいた。

 その後も、いくらか抗議は続いたが、一連の叫びあいの中も、アフカスは全てを慈悲深い瞳で見つめ続けていた。
「くそっ、ラドナ……もういい! お前がこの地方のチャンピオンだ」
 ラショウが言った。さすがに、地位も財産も最高の権力者である彼が言ってしまうと、みんなが黙る。まさに鶴の一声だ。
「元々私が勝ってたのよ、はじめからなるつもりだったわ」
 ラドナは、また天を指差す。

「アフカスの、そしてサクハのもとに! 私ラドナ・ドク・ラショウはチャンピオンとなり、サクハの統一を宣言する!」
 この地の先住民の言葉、アフカス。それをサクハと読んだ、移民。
 これは、まさにこの地を統一するにふさわしい言葉であった。

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