その後はひたすらインフラ整備の日々が続いた。
 まず、カロスから完全に独立するため、「サクハ地方」の境界線をはっきりとさせ、道路と町に名前をつける。
 整備が遅れていたイゲタニタウンやダイロウタウンは、将来のシティ昇格を目指して、とくに整備を進めるべき町とされた。
 ラドナのしたことといえば、ラショウに関係していたジムリーダー、四天王は全員クビ。ラショウは地方外追放となった。バトルが強いラドナに、もはや刃向かう者はいなかった。
 だが、一人だけ例外がいた。こんな会話があったからだ。
「ラドナさん」
「……ライラック?」
「スイバのことは大目に見てくれないかしら。最後は私たちと一緒に争いを止めようとしたわ」
「ああ、もうラショウなんて尊敬するリーダーじゃないぜ!」
 ラドナは少し考えて、こう答えた。
「そうね。しばらくリーグ再開なんてできないだろうから、その間にバトルを鍛えること。いいわね?」
「はっ、……はいっ!」
「私のおかげで、命拾いしたわね」
 ライラックが得意げに微笑んだ。

 それでも幕は閉じない

  「ジャーナリズム、ご苦労様」
「そっちこそレスキューすごかったぜ」
「また会おうな」
「ああ」
 リンドとチャービルは、熱い握手を交わした。

「私は、アフカスもいいけど、もっと自分たちの文化を知ってもらいたいな。だから、サクハ中をまわって、踊りを披露しようと思う!」
 アフラが言った。
「へえー。いいね! それじゃあ、まずは私とチャービルとカラジに見せてよ!」
 ユッカが言うと、アフラはにいと笑った。

 あの日、あの時、あの宣言のあと。
 アフカスはその場にいた全ての人、ポケモン、そして自然に語りかけた。
 「あなたたちを見守る」と。
 どの者にも同じ声色で、同じ声量で、その言葉を届けた。そしてまたアカガネ山に戻り、赤い砂煙が消えた後、山は元通りに塞がれていた。
 鍵もかけられたアカガネ山で、またアフカスは、永い眠りにつくこととなった――。

 アフカスは、サクハに生きる者であれば分け隔てなく受け入れるのだ。
「人間もそうなるといいのにね」
「ん? どうしたカラジ?」
「……なんでもないっ」

 サクハ――そしてサクハにある全ての者と深く結びついているポケモン、アフカス。
 姿を見せずとも、サクハの大地こそがアフカスなのだ。目をつむってみれば、いつでも遭うことができる。
 ……アフカス、ありがとう。

 ハツガタウン。
 大統一時代とは無縁のような田舎だが、そこに最大の“影の功労者”がいた。研究者、シヨウカ・ハイドだ。
「ハイド」
 自動ドアの音とともに、聞き慣れた声が研究所に響いた。
「ラドナ……」
「ありがとう。無茶な作戦に応えてくれて。ボックスのケンタロスに碑文をしっかり持たせてくれて」
「……ああ」
「私が碑文を手に入れた時、リーグ内の統一勢力に一斉に号令をかけたのって、あなたでしょ」
「……ああ」
 その通りではある。碑文を手に入れたのは、自分ではなく……うさんくさい行商人ではあるが。
 その商人――ツキは、アフカスの民をひどく嫌う一派、砂の民でありながら、自分は親移民・アフカスの民姿勢を貫く……ということを、脱力的な口調で語っていた。彼にも考えがあるのだろう。
 ひょっとしたら、彼との関わりはまだ続くのかもしれない――そう黙考していた時に、ラドナが切り出してきた。
「ごめんね」
「なにを……」
「あの時、あなたの選択肢を否定したこと。ポケモンの観察や研究が大好きだったのに。まあ、あなたはしっかり博士号も取っちゃったわけだけど」
「昔の話はもう忘れたさ」
 ハイドがそう言うと、一瞬の沈黙を置いて、二人は笑い出した。
 仕切りなおしに、ラドナが言う。
「ただ、ひとつ気がかりなことがあるの。……」

「くそっ! やっぱりそうだ、マイノリティなんていつの時代も救われない」
 二週間後、サクハが雨季に入った夜、カキツバタウンと名づけられた町の海岸で、ドンファンのパレードでカラジたちを妨害し、またラドナに抗議をした少年――デイジが、柔らかい砂浜に拳を叩きつけた。くそっ、くそっ、と、悔しさのあまり声が出る。
「よりによって、俺たちに与えられたことが、クオンタウンからの移住……そしてクオン遺跡の保存! クオン外の土地がどんなに住みやすくても、人の心なんてそんなにはやく変わりゃしねーんだよ!」
「それ決めたのラドナじゃないけどねぇ」
「ツキ、いたのかよ。お前何を知ってんだ?」
「なんにも知らないよぉ。ボクはボクがいいと思ったことをするだけだからねぇ。ねーっ、リエちゃん」
「パチッ」
 ツキは、自分が溺愛しているメスのパッチール、リエちゃんに、逐一同意を求める。そしてリエちゃんは、いつも同じように返事をしていた。
「私はカキツバタウンに住む気になんてなれない。また差別されるのは目に見えてる。だから、サクハを出る」
 海岸でうずくまっていたトリカが、顔をあげて言った。白く長いポニーテールは、潮風を受けてしんなりしてしまっている。
「俺も……俺もここを出る。この地でできることなんてねえ。そしていつか……この地に一族を復活させる」
「ふふっ、おっきな夢だねぇ」
「お前だって、なんだかんだ言いながら、その服着続けて文化守ってる気になってんじゃねえか。俺は許さねえ。ラドナも、その周りの人間もな」
「そっか」
「そうよ。私も強くなる。強くなって、いつか必ず、ここに戻るわ」
「二人とも、おみやげよろしくね〜」

 ホエルオーのハンちゃんに見送られ、二人は旅立っていった。
「さーて、ボクは一旦クオンに戻りますかねえ。当然引き渡さない人もいるんでしょお。まあ、ボクもそうするつもりだけどね〜」
 カキツバタウンは小さい。ツキの声は、波の音とホエルオーの歌声にかき消され、だれも聞く者はいなかった。

統一サクハへの道

Fin.


 登場人物が多く、また荒削りな話をここまで読んでいただき、ありがとうございます。
 とにかく自分の力量のなさを痛感しました。二月完結とか言ってたのに…!
 おかげでいろんな展開をして、遠回りしつつゴールしましたと言っておきます。
 それぞれの戦いはそれぞれで続いていくので、気になった話だけでもオルタナ世界を追っていただけると、とても嬉しく思います。
 不人気カラジももうちょっと人気が出るといいな!笑

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