「それじゃアンタ、もうバトルやめるっての?」
「僕にバトルは向いてない。ここ最近、君に勝ったことなかったしね」
「もう一度考え直しなさい!」
「頭に血が上ってるからそんなことが言えるんだ。これだって一つの選択肢だろう」
「っ……もう知らない!」
(忘れた出来事)
統一サクハへの道
二の記憶:「自分が自分でいられるような世界って難しいね」
その日、チャービルはノートを開き、何やら関係図らしきものを余白がなくなるぐらい書いていた。
カラジは気になって、歯磨きを終えた後、彼のノートを覗き込んだ。
「それ、何?」
「読む? 手ぇ疲れてきたし」
チャービルは何のためらいもなくカラジにノートを渡してみせた。
「えっと」
そこには、このあたりの地図や勢力図が書かれていた。
「ポワルンを取り返すため、取り返してから何をするかわかっておくためにまとめた。まあ好きに使って」
〜カロス東部自治領、またの名をサクハ全図〜
地名のほとんどは俗称であろうが、これを使うこととする。
ヒウメ:あらゆる思想の者が集まる。カロス系の第一移民およびその子孫が多い。
クダイ:闇市に支配された町。第二移民およびその子孫が多い。
クオン:
カゲミ:危険、近づくな。ゲリラの発砲多し。
イゲタニ:第三移民およびその子孫が多い。それ以外の情報なし。
シラミツ:ユッカの家がある。シラミツ島先住民の土地として表向きには平和だが、ゲリラの温床となっている可能性大。
ダイロウ:多数派部族であるアフカスの民が住む。迂闊に近づかないこと。
リンドウ:かつて戦争があった島。それ以外の情報なし。
かつての第一移民はこの全域、おそらくはその周辺をもサクハと呼んだが、定着しているとはいえず、各町の統一性は皆無に等しい。
「えーっと……」
「な、完璧だろ」
「いや、この第一移民とか、そういうのって何? 移民って開拓時代だけじゃないの?」
「なんだ、そんなことも知らないのかよー」
「大丈夫よカラジ、私も知らない」
話を聞いていたアフラが言った。
「アフラもかよ。わかった、説明する。だからそこに座れ」
「えー、チャービル、えらそーう」
ユッカがやじを飛ばす。チャービルはユッカを軽く睨み、ユッカは笑って返した。
「第一移民ってのは、オレも彼らの子孫なんだけど。サクハ地方を発見して、一番最初に住み着いたカロス系の移民。若くして才能を認められた、あのシヨウカ・ハイドも第一移民だ。そんで第二移民は、しばらくしてから移動してきた人たち。出身地は近隣国で、ブッディズムを信仰している人が多い。カラジは第一か第二かのどっちかだろうな」
「クリスマスをやるからまあ第一だろうね。花祭りもやるから文化的にはごちゃ混ぜだな」
「まあ、ヤエキならそうなりかねない。ヒウメにいると、嫌でも意識することがあるけどな。んで、そうか、第三移民な。彼らは、北の熱帯雨林から歩いてきた人たち。仕事探しとか、まあ色々あるんだろうな。彼らのほとんどはイゲタニシティに住んでいて、肌の色が濃い」
「アフラみたいな感じ?」
「んー、アフラは天の民だから、第三移民よりずっと前に南に渡った人の子孫ってことになる。同じ北サクハ系だけど、今は天の民と第三移民の間に結束はほとんどない……らしい。それで合ってる?」
チャービルがアフラに反応を求めると、アフラは静かに頷いた。
「第一、第三移民なんてのも初めて聞いたわ。イゲタニには行かないし」
「そっか。とにかく、サクハは敢えてカロスの自治領って呼ばれるくらいバラバラってこと。んで今、独立の気運が高まって、誰が主導権を担うかで各移民や部族の間でめちゃくちゃ争ってんじゃん。で、なんとかしようと組織が立ち上がっては攻撃され、なくなって……まあ、完全になくなるなんてありえないんだけど」
「なんで?」
「意思さえもなくすことなんてできないからさ。オレはヒウメパソコンクラブの方針は正しいと思ってるし、でかい戦いに立ち向かう力もあると思ってる」
「根拠は?」
壁にもたれかかって話を聞いていたユッカが言った。
「……」
黙りこくるチャービルに、カラジとアフラは注目する。
「ない!」
そう爽やかに言い放ったチャービルとは対照的に、他の三人からはへなへなと力が抜けた。
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