アフラは、チャービルがサイトを更新する様子を、じっと見ていた。
「こんなもんでどう?」
「ええ、これでいいわ!」
「んじゃ、あとはバナー貼るだけ」
「ほんとに、ありがとう」

 ポケモンの時間、人間の時間

 チャービルがサイトに貼ったバナーには、ポワルンの絵が描かれていた。
 決して上手いとはいえない絵はユッカ作のものだ。虫ポケモンなら詳細まできちんと描くことができるのだが、その他のポケモンや人間は目も当てられないほど。だが他に描けそうな人もいないということで、チャービルが「ポワルンを虫ポケモンだと思って描け」と、無理矢理描かせたのだ。
 思い込みというのも、それなりに効果を発揮するもので、そのポワルンの絵はいつもほどの残念さはなく、これはこれで味のあるものだった。

 バナーをクリックすると、「ポワルン、探しています」の文字が表れ、その下にもつらつらと文章が続く。アフラのポワルンの特徴や、心当たりのある場所が書かれている。
「見つかるといいんだけど……」
 不安そうにつぶやくアフラの肩を、チャービルはぽんと叩く。
「見つかるって信じてるから、こういうことやってんだろー!」
「……そうね」

 カラジが食器を洗っていると、エネコとタネボーが視線を合わせた。タネボーにとって、視線が合うのはバトルの合図。エネコは少したじろいだ。
「お、バトルか?」
 チャービルは乗り気だ。
「家ではやめなさいっ」
 ユッカはタネボーに注意した。
「いいところに……まあ、確かに家じゃだめだよな」
 チャービルが言うと、カラジは洗剤をスポンジにつけながら、呆れ顔をした。
「あのねぇ。僕のエネコはバトルとかしないから」
「えー、そうなのか」
「そういえばカラジ、エネコのこと弟って言うもんね。手持ちポケモンとか、相棒だとか言わない」
 ユッカの言うとおり、カラジはエネコのことを昔から弟だと思っていた。
「ああ、クセみたいなもんで」
「いいと思うよー、弟。いい響き」
 子供たちの会話をよそに、今度はタネボーが愛想よく近づいた。エネコも力を抜き、笑う。
「友達モードか。タネボーがここまでリラックスするのも珍しいな」
「きっと友達が欲しかったんでしょ」
 タネボーはバトルは強いが、結構な人見知り、というか一匹狼タイプだ。今までも、エネコとはほとんど仲良くしてこなかった。
 やがて二匹は、色々話しはじめたようで、「かかっ」「みゃお」とないては笑う。
「一度打ち解けたら、すぐに仲良くなれちゃうんだね」
「人間だったら、子供の特権、かな?」
 子供の特権。チャービルがそう言うと、カラジはしゃがんで、二匹をじっと見た。二匹はかまわずじゃれあい続ける。
「いいよねー、ポケモンは、いつまでも単純で」
「えっ」
「野生にいれば敵同士、でも一度人間に手なずけられたらこれだよ。でも人間は、たとえ友達同士でも、大人になったら微妙な距離感ができたりさぁ……」
「カラジ」
 年上のチャービルにも、思うところがあったのだろう。数瞬の沈黙が流れた。
 やがて、洗濯物を畳み終えたアフラが口を開く。
「ポケモンは単純、っていうのは違うと思う」
「えっ」
「人間と同じように……ううん、もっといろんなことを感じているはずよ。勘だって強いし、私のポワルンは大気の流れを読み取って天気予報なんかできちゃう」
 何か辛いことを思い出させてしまったか、とカラジは不安になったが、特にアフラは表情を暗くはしなかった。
「それに、ポケモンの成長は人間より早い。私が小さかった時、お母さんが持ってたハスボーもまだまだ子供で、よく一緒に遊んだりしたけど、ハスボーばっかり大きくなっちゃって。置いてけぼりって感じがした。だから、今は子供だ単純だって思ってても、もう本当に、すぐに抜かされちゃうんだよ」
「そっか」
 会話を終えた様子の二匹は、それぞれの持ち主、そして兄のことをじっと見上げていた。カラジは可愛い弟をそっと抱き上げる。
 エネコは、みゃお、とないて、撫でてほしそうにした。
「こいつが、大人、ねぇ……まだ想像つかないな」

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