「おかえりチャービル、ご苦労様」
「ああ、どうも」
「どうしたの? 機嫌悪っ……」
「ちょっと聞いてくれるか」
 ユッカはきょとんとした。カラジとアフラは作業の手を止め、肯定の意を示した。
「話せばいいじゃん」
「ああ、さっき――」

 自分の信じる役割

 ヒウメの大通りの一つ、ファイブストリートで賞金稼ぎをしていた時のことだ。
「このままではいけない」
 何者かが演説を始め、周りにわらわらと人が集まる。ちょうど本日分のノルマを達成したチャービルも、演説を聞こうとその中に入った。
「絶えぬ争い、民族間の厚き壁。このまま混乱が続けば、我々は民族に関係がなく滅んでしまうだろう!」
 そう切り出して、彼は熱い演説を続けた。恐らくこの者とチャービルは、同じような意思を持っているのだろう。だが、この演説はとうにわかりきったことしか話さない。
 平和のためにはどう行動すべきか、明確なビジョンが感じられないのだ。
 そろそろ結びか、といったところで、演説をしていた者は何者かの攻撃によって倒れた。

 大通りが混乱する。恐らく誰かが、とても素早いポケモンに指示をしたのだろうが、さらなる攻撃が来ることはなかった。
 その中、チャービルはあくまで冷静にカメラを取り出した。
 撮っては巻き、撮っては巻き。町の様子もカメラに収めた。
 その時、チャービルに話しかけた、少年と青年のちょうど中間のいでたちをした、夕焼け色の髪をした者がいた。
「お前っ……人が倒れてるってのに、やることはそれか!?」
 彼は倒れた人の呼吸が続いていることを確認すると、傷を塞ぐため救急箱を出した。
「致命傷には至らないか……ちょっと、手伝えよ」
「オレはそういうことに関しては、全くの素人ですので。きっと邪魔をします」
「なっ……」
 彼は何か言いたげではあるが、手は止めなかった。
「あなたが救助して、私はニュースとして流す。そもそもの役割が違うんですよ」
「人命よりも特ダネを優先するってことか」
「違いますよ。私の仕事はいつだってメディア関連です」
「メディアなんて、信じられないね」
「だと思いますよ」
 チャービルは面倒くさそうに答えた。その態度に、相手も問いただす気を無くしていった。
「ありがとう」
「あー、あんまり動かないでください!」
 演説者が無事であることは確認しつつ、チャービルは帰路を急いだ。

「……ってこと。どう思う? 率直な意見が聞きたいんだけど」
「えー、絶対救助するべきだよ! のんきに写真撮ってる場合じゃない」
「私はチャービルの気持ちもわかるわ。ニュースとして報道し、仲間を鼓舞することだって大切」
 ユッカとアフラ、少女二人の意見はぱっきりと分かれた。
「カラジ、お前はどう思う?」
「僕は……」
 カラジが言いかけると、ユッカとアフラも注目した。
「もし彼が負ったのが致命傷だったら、チャービルは救助を優先した?」
「……わからない。オレはあくまで報道がオレの役目だと思ってる、けど致命傷の人を目の前で見たらどう動くかは。まあ写真は一枚に留めておくだろうね。ただ」
「ただ?」
「こんな混乱した時代も長くは続かないと思ってる。どうせ皆疲れるだろ、それなりに割り切って生活していくしかない。お互いに不信感を抱きながらね。だけど、そんな世界では、今の出来事は歴史になる。より未来のことを考える時、オレの行動は間違ってないって思う」
「人命より記録が大切って言ってるようにしか聞こえないんだけど」
 ユッカが反論した。
「だから致命傷であった時はどう動くかわからないって言ったじゃないか。オレが先のことを考えるかわりに、今日の男の人みたいに、「今」をしっかりと見てる人だっているんだから」
「うー……」
 今のユッカに、チャービルを言い負かすほどの思考はなかった。
「とりあえず、今日のことはネットに流すよ。演説者だって、あの男の人だって、オレだって、思想そのものはそこまで変わらないんだ。争いを終結させること、ただ、ビジョンは見えないけどね――」

<二の記憶・了>

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