一度転んでしまったら
 自分から転んでみせなさい
 そこから立ち上がられたなら
 あんたの子はもう、大丈夫

 (作者不詳の古いうた)

 統一サクハへの道
 三の記憶:「潰えても潰えても立ち上がるために必要なものを彼は知っていた」


 指示もなく、ドクのフライゴンは下降する。
 フライゴンには、ドクの活動範囲、それに行動パターンなんてものは簡単に予想がつくのだ。

「ふぅ」
 長い飛行を終えて、ドクはフライゴンから降りる。じんわりと、地面のぬくもりを感じた。
 自治領の南東に位置するダイロウは、このあたりでは珍しく、気温がやや低めで、しかもそれが一年にわたり保たれている。
「ただいま、トギリ」
 ドクはフードを脱がずに言った。
「ああ、ドク……か。おかえり、と言うべきなのか」
 ダイロウに入ったドクを迎えたのは、アフカスの民とすぐわかる身なりをした男性であった。
 自治領に数多いる先住部族の中でも、よく見かける髪質、そして服装。所謂マジョリティというやつだ。
「好きに迎えればいい。どうせまたどこかへ飛ばねばならない。時にこのフライゴン、頭がいいな」
「ナックラーの頃から、妙に頭のきれるやつだった」
「だろうな。もう私のポケモンにしてしまいたいくらいだ」
「それは断固拒否する」
 あくまでも固い態度を崩さない話相手に、ドクはくくっと笑った。
「……ドク」改めてトギリが切り出す。
「なんだよ」
「本当に、いいのか」
「は?」
「複雑なのだ。お前にとってもリスキーなことだろう」
「まーだ言ってんのかよ」
 複雑な表情のトギリとは逆に、ドクは終始ひょうひょうとしている。
「今のサクハに必要なのは、統一だよ。独立を目指す政党が多数派になってから色々駆け足すぎたから、独立後もやっていけるように、民衆をまとめる。それを信じてるから、私はこうして動いてるんじゃないか。私の中で犠牲になるもんなんざ、ほんの少しだ」
「だがな、お前は」
「これ以上言ったらどつかれるぞ。んじゃ、また暫く、フライゴン借りるからな。トギリはトギリで、最後まで踏ん張れよ」

 ダイロウの住民たちに、挨拶をしてまわる。ここの連中に反抗されてしまっては、ドクの抱く夢は簡単に潰えてしまうだろう。
 第二移民とアフカスの民のハーフであるこの男に、ダイロウの住民は未来を託している。
 挨拶、そして物資調達が終わった後、ドクは北海岸の自宅に戻った。
 パソコンを立ち上げ、インターネットを開く。大体の事件はこの目で見ているが、どこかで動きがあればすぐ対応できるようにしたい。どの町へ行っても、ドクはニュース速報に目を通さないことはなかった。
 新聞も大体読んではいたが、もちろん自治領全体を扱う新聞なんてないし、ローカルの粗末なものくらいしかなかった。
「ふむ、ヒウメシティで演説者が攻撃される……」
 今ドクが読んでいるサイトは、あるがままの報道で信頼が得られていたが、ニュースサイトにしては文章がやや稚拙であった。
 記事を読み、スクロールバーが下にぶつかる。その時、ドクの目に一つのバナー画像が飛び込んだ。
「ポワルン……?」

 バナーをクリックし、「ポワルン、探しています」と出てきたページをななめ読みする。
 間違いない。このトレーナーが探しているのは、自分が保護したポワルンだ。
 「心当たりのある方は連絡を」と書かれ、その右にメールアドレスが書かれていた。
「……ふむ」
 ドクはそのアドレスに、簡単なメールを送った。

「ポワルンは保護した。明日、クオン遺跡にて待つ」

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