小さなかみさま


 わけもわからないまま、俺たちは逃げた。
 悪タイプのドンカラスを出しておいたおかげで、あのサーナイトには吹き飛ばされたものの、サイコパワーの攻撃力は無効化されたのだ。
「さて、これからどーしたもんか」
 ひとまず町まで逃げ切り、残った団員の一人が言った。逃げ切れたのは、やはり悪タイプのポケモンをボールから出していたやつばかりだ。
「ボスたちがいないからなァ。しばらくはバラバラに隠れて、目処が立てば密猟再開、でいいんじゃないか」
「それしかねぇな」
 提案した男が、とりあえず二週間経てば連絡する、と言って、その日は解散した。

 ネオンの町トバリ。安い宿には何度か世話になった。
 なんでも町はずれには隕石があるらしく、それもあって宇宙開発に燃える町だ。
 その開発の拠点となるビルが、今まさに北部で建設されているが、工事の音はやや耳に障る。

 あのサーナイトでのもうけを期待していた俺には、百貨店があったところで、なにも買えるものはない。
 密猟なんて、その場しのぎのサバイバルだ。
 幸か不幸か、この町には俺に似た貧相な連中が闊歩していたりする。
 今夜も彼らは、「神」――この町でこう言うと神話のポケモンではないが――を求め、ゲームコーナーへと足を運ぶのだろう。

 幸い、今日の俺は腹持ちがよかった。
 今日は晩飯代を浮かそう――と思って、野宿する場所を探している、その時だった。

「ピッピー……」

 俺に話しかけてきた、身の程知らずのポケモン。
 それは、誤ってシティに出てきてしまったらしい、耳が緑色のピッピだった。
 色違いのポケモン……それも、ここトバリでは特別な意味を持つピッピだ。
 さきの「神」だ。トバリゲームコーナーのボーナスステージで出てくるピッピ、それもボーナスが継続しやすい色違い。俺は出会えたことはなかったが、ゲームを楽しむ者がそう呼んでいるのだ。
 ――こいつを売れば。
 こいつを売れば、かなりの値段になる。生活も少しマシになるどころか、一攫千金、しばらく金には困らなくなるだろう。
「手早くいくぞドンカラス、“悪の波動”。静かに頼む」
 ドンカラスは、俺の言ったとおり、いつもより少し力を緩めて攻撃した。俺が騒音によって人が集まり、ピッピの取り合いになることを懸念したからだ。
「……それじゃ」
 俺は普通にモンスターボールを投げた。ピッピは抵抗することなく、ボールにおさまった。
「よし」

 ツタで囲まれた小屋を見つけ、中に入ってピッピをボールから出す。自分の運命も知らず、ピッピー、と、呑気にないた。
 まず、ここで誤算があった。そのピッピは、都市の裏道で迷ったためか、かなり汚れていたのだ。
 数日間自分のもとに置いておいて、毛並みを整えてからでなければ、とても高値はつかないだろう。
 ……仕方ねぇ。
「ひとまず、お前の命も延びたぜ。喜べよ。まあ、売却後のほうが、お前も幸せになれるかもしんねーけど」
「ピッ……?」
「むかつく面しやがって。もう戻れ」
 俺はピッピをボールに戻した。
 数日間。この期間で何かが変わったのか、何も変わっていないのか、今でもわからないわけだが。

⇒NEXT
120424