Entralink Chronicle - 02


 いろんな見た目をした人が、同じようなスーツを着て、南北に伸びる大通りを歩く。何人かがビルに消えても、通りをゆく人の数は減ったように見えない。
 北へと行くと、ダンサーや大道芸人、スケートボーダーたちの本拠地である噴水広場があり、ここから四つの大通りが伸びていることがわかるだろう。
 ここが、イッシュ一の大都会、ヒウンシティでないはずがなかった。
「ほんと、あたしの世界とそっくり!」
 ハイリンクではじめに着いた街をエマは気に入ったようで、人ごみを華麗にすりぬけ、スキップをしている。
 だが、自分の世界とは違うものがあった。自分の外見だ。
 夜明けの空の色をした瞳が変わることはなかったが、そばかすは無くなり、肌のハリは良くなり、さらにほつれのない、ウェーブのかかった長髪。前髪だけは、なぜかジョーに似ているのだが、特に気に留めることではない。
 髪を伸ばすとすぐにボサボサになってしまうエマにとって、長髪は憧れだったのだ。

 ヒウンシティに来てしたいことといえば、最高のデザートと云われるヒウンアイスを味わうことであったが、生憎今日は閉店であった。
 それなら広場に行こうと、エマは広場に向かった。
 その日の広場は、よく言われるようなストリートパフォーマーの聖地ではなかった。
 古代から中世にかけての賢者のような格好をした七人組が、聴衆を引き付ける。その人ごみの中にエマは混ざった。この人ごみにはすでにジョーがいたのだが、お互いに気づくことはなかった。
「ワタクシの名前はゲーチス。プラズマ団の、ゲーチスです。今後お見知りおきを」
 長い黄緑色の髪をした、七人組の中央の人間が言った。
「今日は皆さんに、ポケモン解放についてお話します」
 聴衆がざわめいた。エマにとっても、その言葉の意味がわからない。
「……我々人間は、ポケモンと共に暮らしている……お互いを必要としあうパートナー。そう思っていらっしゃる方が多いでしょう。ですが、それは真実なのでしょうか? ただ我々人間だけがそう思い込んでいる、むしろ、そう思い込みたいだけではないでしょうか?」
 エマはぎくりとした。右手で、腰につけたモンスターボールを撫でる。
 ユニランの、ランちー。エマの幼なじみで、パートナーだ。
「皆さん、思い思いの行動をされましたが……トレーナーはポケモンに好き勝手命令している。仕事のパートナーと言っておきながら、それはポケモンをこき使っているだけ! そんなことはないと、この場にはっきりと言い切れる者がいらっしゃるでしょうか?」
 ざわめきが静まった。大都会の真ん中に、沈黙が広がる。
「そもそもポケモンは人間とは異なり、未知の可能性を秘めた生き物なのです。我々が学ぶべきところを数多く持つ存在なのです。ワタクシたち人間がすべきこととは何でしょうか?」
 ゲーチスのその問いに、
「それが、解放ってこと?」
 と、一人の子供が言った。
「そうです、ポケモンを解放することです!」
 ゲーチスは、両腕をあげ、空を仰いだ。野生のマメパトの群れが、丁度丸い空を横切った。
「そうしてこそ、人間とポケモンははじめて対等になれるのです。皆さん、ポケモンと正しく付き合うために、どうすべきかをよく考えてください。ご静聴、感謝いたします」
 話者は、ぽかんと口をあけた聴衆をよそに、あとの六人に囲まれて北へと去っていった。

 その場には戸惑いだけが残った。
 解放とはどういうことなのか、聴衆にはしっかり届かなかったようだ。
「何をすればいいんだ。逃がすってことか?」
「そんなの絶対に嫌!」
 それでも、聴衆はちりぢりに去っていく。人が減る中、エマはその場に、自分にそっくりな人を見つけた。
「ちょっと、あんたっ!」
 エマがそう言うと、彼女は逃げた。エマは彼女を追う。
「せっかく理想のあたしになったのに……いきなりそっくりの奴なんて許せないっ!」

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