Episode 10 -砂漠のミステリープレート-


 ステラたち一行は、どこまでも続くような砂漠を進んでいた。
「なんつーか、こうさ……砂地だから余計に困るんだよな。エデルかルーが通ったところで、足跡残んねーし」
「さっきから気になってるんだけど、君たちは仲間を探してるの? はぐれたの?」
「はぐれたっつーか、ま、ポケモンといろいろあってさ。一人でポケモン探しに行っちゃって、置いてけぼりくらったっつーか……」
「なるほど。どんな子?」
「えと」
「帽子をかぶった、長くてふわふわした茶髪の女の子です。ポケモンはブルー」
 ステラが考えはじめると、先にカグロが答えた。説明はカグロの方が上手い。
「なるほどね。……」
 それだけ聞くと、シャーマンは黙って瞳を閉じた。
「ん? おーい」
 ステラの口をカグロが塞いだ。シャーマンとしての力を使っているんだろう、とカグロはステラに囁いた。
 こうして静かな時間が訪れると、やはりこの地は、大陸の他の地とは違う、とステラは思った。他の土地は水に恵まれているのに、こちらは乾燥。砂漠に住むラッタやサンドを見ても、野生の血が濃いように思える。“地図にない町”のような、飼い慣らされた感じはしない。
「うーん……」
 シャーマンはそこでまぶたをあげた。
「どうも彼女、私たちの手の届かないところにいるみたいで……」
「どこだそれ?」
「この土地は、住んでいる私たちにも謎だらけで、自然やポケモンたちの力を借りることはできても、探し物となると……ごめんね。でも、私も探し続けるわ」
「そっかー。残念だ……でも、ありがとな」

 ここよ、と言ってシャーマンが足を止めた場所は地下洞になっていた。
 一行は、土の階段を下る。
「待って!」
 一番後ろを歩いていたステラは、階段に何かを見つけたようで、カグロとシャーマンを止めた。
「これ、ルーの足跡じゃないか?」
 カグロも、その場にしゃがんで、そのくぼみを見つめる。
「ルー、だな。この大きさ」
「ってことは、この洞窟にルーが!」
「いや、この足跡、右端と左端についてる。一度入って出たんじゃないか? でも、ルーがここに来た可能性は高い」
「やっと近づけたと思ったのになー。ルーは何をしに来たんだろう」
 シャーマンはそこまで聞いて、太陽の光がいい具合に入ってきて中まで明るい洞窟の壁を指した。
「これじゃないかしら?」
 壁には、古めかしい絵が描かれていた。絵というよりも、記号の集まりのようなものだ。
「ポケモンと人間の絵って、何となくわかる? こっちはドードー、その隣がケンタロス、上にいるのがオニドリルだと推測されているの。人とポケモンが仲良く遊んでるみたいでしょ? これは、昔から人とポケモンの交流があったっていう証拠にもなりえるものなの」
 その、追いかけっこをしているような壁画を見て、カグロは今までのポケモンの様子を思い出していた。
「そういえば、草地で出会ったピィやスターミーは人懐っこかった。でも砂漠のポケモンはあくまで野生だった。というと、このあたりや草地には、人が住んでいたことがある、と」
「あ、うんうん! それはオイラも思ってた! 砂漠だけちょっと違うよなーって」
「なかなか鋭いわね。砂漠は人は住みにくいから、あまり交流がなかったのよね。で、この壁画、何かヒントになるかしら」
 そう言われて、ステラは壁画に向き直った。
「ルー、これ見て、どう思っただろうな。ここに隠れようと思って、でもこれ見てやめたとか?」
「近いかもな。今のルーがこれを見たら、心が痛むだろう」
 その会話を聞いたシャーマンは、二人の頭にそっと手を置いた。
「あなたたちや、ブルーに何があったのかはわからない。だけど、仲間のこと、助けてあげて」
「……はい」

 ミステリープレート・ガンマは、その小さな洞窟の一番奥にあった。
「あったわ。これで三つ目。ここは私のポケモンにまかせましょう。……力を貸して、イーブイ!」
 シャーマンは、ぼんぐりで手作りされたと思われるボールからイーブイを出した。
「そのプレートに触れて」
 イーブイは石版に触れる。二回目もわくわくするな、とステラはカグロに囁いた。
「レトロケイブッ!」
 ミステリープレートは緑色に少し輝いた。成功だ。
「レトロっていったら、古いっていう意味ですよね? どうしてイーブイに」
「この地では、多くの進化の可能性を持ったイーブイを“古”、イーブイの進化ポケモンを“新”とする考え方があるの。だから、この技はイーブイにぴったりってこと」
「なるほど」
 一行は、洞窟から出て、最後のミステリープレートのある地へ向かうことにした。ステラとカグロは、ルーの足跡を消さないように、階段を上った。

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