Episode 11 -地底の透明-


 カグロが地底湖にたどり着いた時、ネオラントの光を頼りに見ると、湖には丸い小島があり、その上に自分が立っていることがわかった。
 湖面はかなりにごっており、触ると指を絡めとられそうだ。
「カブトプスたちが怒っていたのは、このためか……?」
 ここはずっと人の手が入っていないはずだから、人間による水質汚濁ではない。となると。
「……エネルギーの暴走、か……?」
(そうだ)
 またしても脳に直接響く声。主は地底湖の横穴にいた。
「スイ、クン……?」
 輝く水晶と鬣の美しさは、暗闇の中でもすぐにカグロをとらえた。
(昔ここはスタジアムとして、実力のあるトレーナーたちが戦った。今でもモンスターボールの形が残っている)
 スイクンがそう言うと、ネオラントは小島の上をくるりと回った。確かに、うっすらとモンスターボールの形が見える。
(エネルギーの問題となると、私の力だけでこの湖を元の状態に戻すことは不可能だ。そうだな、君、力を貸してくれないか)
「ネーオ?」
「俺のネオラントが、湖をきれいにできる……?」
 ネオラントに、エネルギーの流れを変えることができるとすれば、思い浮かぶ技は一つであった。
「ネオラント、“オアシスヒール”!」
「ネオーン!」
 この地で覚えた特別な技なら、それが可能である。
 ネオラントの技によって光りだした湖面をなぞるようにスイクンが駆けた。湖は美しく透き通り、また異臭もなくなった。
 横穴からたくさんのポケモンたちが出てきて、喜んで湖に飛び込んだ。ネオラントもそれに交ざる。
「気持ちよさそうだな……俺も少しだけ」
 カグロは、湖の水をすくい、顔を洗った。とても気持ちがいいものだった。
(ありがとう。君はルギアからの信頼を得ているようだから話すが、これも一時的なものにすぎない。だから、引き続き、神殿に向かってほしい)
「神殿……? それは聞いてはいませんが」
(北の山にそれはある。そこに向かえば、すべてを変えることができるだろう)
「……わかりました」
(それと)
 スイクンは、カグロの膝元に、コトリ、と小さな水晶を置いた。
 カグロはその形に見覚えがあった。急いで、ポケットに入れていた紐のくぼみと見比べる。
(そう、そのとおりだ。二つあわせて、はじめて“水晶のかけら”としての力を発揮する。紐はルギアが、水晶は私が持っている。誰かに盗られた時のためにな)
「これが……。ありがとうございます」
 カグロは、そっと水晶を紐のくぼみに近づける。それはまるで磁石のようにくっつき、離れなくなった。

「でも、紐は直接ルギアにもらったわけではない……俺が持っていていいのか?」
(どうせ、渡すのを忘れたんだろう。もしくは、すぐに出せないところにあった、とかな)
 カグロは、スイクンのその返事に、笑うしかなかった。
(お前はここから上って帰ることは困難だろう。私が手伝ってやろう。……“あまごい”!)
 スイクンの遠吠えによって、その地に集中的に雨が降り出した。
(まぁ、これで裂け目も傷むだろうが、もう人間には関係のない土地であろう。あとは私が波をあやつる。元気でな)
 カグロはネオラントに乗って、さらにスイクンが作り出した波に乗った。

「はいはいはいはい! 絶対あいつが何とかしてくれるから! そろそろ勘弁して!」
 ステラはずっとカブトプスをはじめとするポケモンたちに応戦していたが、彼らの攻撃は、急にピタリと止まった。
(湖がきれいになった)
「え……?」
 ステラがぽかんとしていると、カグロが後ろから話しかけてきた。
「帰るぞ! ネオラントを掴め!」
「へ?」
 ステラはロトをボールに戻し、ネオラントを掴んだ。地底探検隊員もそれを見て、おのおののポケモンを繰り出し、波にのった。
 カブトプスは、その様子を見ながら、
(ありがとう)
 と呟いた。

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