Episode 13 -神殿への切符-


 謎の大陸北部には、神秘なる山と言われる山を中心とする大山脈が広がっている。
 人が通った後はほとんどなく、ポケモンたちの絶好の住処となっているのだ。
「はー、晴れた日に時計台から見えたあの山がこんな近くに……」
 ステラは、ホームタウンである、地図にない町のことを思い出しつつ言った。
「ああ、あそこから見えるのか」
「そっそっそ! ん? あれは……」
「リングマですわね」
 エデルが声を落として言った。
「リングマ!」
「しっ! 気づかれるとまずいです。静かに行きましょう」
 ステラはそのリングマの進行方向が気になった。リングマは、湯気がたつ場所に向かっている。
「あれ、なんだ……」
「温泉だよ」
 近くの川で釣りをしていた青年が言った。
「温泉? このあたりで湧いているんですか?」
「あれを見たらわかるだろう。人も入れるよ。一度入ってみたらどうだい?」
「いいですわね。あなたたちはどう?」
「入る!」
「疲れを癒すにはいいかもな」

   さきのリングマは、温泉につかって恍惚の表情を浮かべていた。隣にはヒメグマたちもいた。
 ゴーリキーやイノムーは近くでバトルの特訓をしている。そちらに視線を向けているカビゴンは、ひょっとしたら寝ているだけなのかもしれない。
「うひょー! 楽園!」
 人のための更衣部屋もあり、三人はそこで水着に着替えた。一番早く着替え終わったステラは、勢いよく飛び込む。水しぶきがヒメグマたちに飛び、くぅんとないた。
「あら、もう」
「もうお湯の掛け合いまでしてるぞ……」
 ヒメグマと戯れるステラは、お前たちもまざれよ、とカグロたちを呼んだ。
「たまにはこういう、庶民の遊びというのもいいですわね」
 そして数分間、三人とポケモンたちでお湯を掛け合った。

 しばらくして、三人も落ち着いて温泉の温もりを感じた。
 人間は彼らだけでなく、他にもいた。おそらく地元の人だろう。
「あったかいなー、ロト。全身入ればいいのに。ほら、キマワリも!」
「ト、トック、トック!」
「キマァー」
 ロトとキマワリは、一度入ってみて、その熱さに驚き、今は足を少しだけつけている。
「熱いの苦手か?」
「トック!」
 ネオラントは温泉をすいすいと泳いでいる。ルーとカモネギは温泉が好きなようだが、少しのぼせかけだ。
「さーて、そろそろあがるか……ん?」
 一瞬の出来事だった。
 上空を何かが飛び、その瞬間、温泉に大きなバツ印が浮かんだ。
「なんだこれ……」
 その印は、すぐに波紋と消えていった。
「ニュートラルポケモンだな」
 はじめから湖面だけを見ていたカグロが、ぼそりと言った。
「え、なんでわかったんだ?」
「バツ印ができるのとほぼ同時に、あそこやそこで、波紋が出来た。さらにそこから火が出た。エスパーと炎のエネルギーだな」
「なるほど、さすがだなー。追いかけようぜ!」
 一行は、そのポケモンが消えた方向を覚えておきつつ、追いかける準備をはじめた。

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