Episode 14 -神殿とエネルギー-


 左の道は進めば進むほど風がきつくなっていった。
 今ステラとロトの眼前には竜巻がのぼっており、中にはゴーストがいる。
 ロトの攻撃は何も届かなかった。
「竜巻が来る! 逃げろ」
 ゴーストは竜巻でロトを攻撃してきた。
「……そうだ、こんな時こそ!」
 ステラはサックスを出し、吹いてみせた。
「いいな、ロト、“むしのさざめき”だ! オイラのでっけーサックスに、乗せろーっ!」
 そう言ってステラは思いっきり息を吸って、サックス演奏をはじめた。
 ロトはそれに合わせてさざめく。竜巻を越え、それはゴーストへの攻撃となった。
「まだまだぁ! オイラは吹く!」
 ゴーストは怒りにまかせて竜巻を動かし、ステラのサックスケースを巻き込んだ。
「んなっ!」
 サックスケースは、ステラがサックスを手に入れた時に母が作ってくれた思い出の一品だ。
「なんてことしてくれんだ!」
 ステラはサックスを吹き続け、息が乱れてきた。
「トック……」
「なんだロト、心配してくれてんのか? そんなんいいから、とにかく技を」
 ステラのサックスに合わせて、ロトは自ら禁断の歌を歌いだした。“ほろびのうた”だ。
「え、その技……」
 やがて竜巻はおさまり、ゴーストは消え、ロトはその場に倒れた。
「ロト、無茶しやがって!」
 ロトは薄目を開き、主人を見つめる。それから、床に落ちたサックスケースを指した。
「そうだ、ケース! よかった、そこまで酷くない。オイラが直せばまだ使えるだろう。ロト、とにかく今は休んでくれ。……ありがとう」

 ステラが外に出ると、そこには壮年の男性が立っていた。
「あなたは……」
「安心しろ、敵ではない。考えようによっては、敵かもしれないが……な。神殿の前で君を見つけて、ここで待っていたというわけだよ。ここまでは、あるポケモンに連れてきてもらった」
「敵ではないが、敵かもしれない?」
「ああ、私は君の父親の弟、そして数日前、君の母に結婚を申し込んだ」
 ステラは何も言葉が出なかった。母はそんなそぶりを全く見せていなかった、とステラは思ったが、旅に出る前の母との会話をもう一度思い巡らせた。
 ……一度大陸中を旅してみたら?
 ……それなら大丈夫。自分一人分くらい、何とかなるわ。それにステラだって、たまには自分の好きなことをしたいでしょう?
 母は、ステラの旅の話には積極的だったし、むしろ提案者であった。
 旅の間に、この叔父ととれる人物が来ることを知っていた? 合わせたくなかった?
「動揺しているな。大丈夫、結婚は断られた。未だに、私の兄、つまり旦那を待っているのだと」
 ステラは父には会ったことがなかった。生まれた頃から行方不明だが、母はその詳細を話すことはしなかった。
「それから、どうしても、どうしても息子に会いたいと頼んだら、息子は大陸を旅していて、いずれは神秘なる山にたどり着くだろうと教えられた」
「そんなことも話したのか?」
「ああ、彼女は知っているからね」
「何を……」
「このポケモンに訊いてみたらどうだい?」
 ステラの持っていた、“時のかけら”が輝きだした。今までで一番強い輝きだ。
 これは頂上にある黄色いミラクルソフィアと共鳴しているというよりは、近くの、もっと動的な存在と共鳴しているように思われた。
「ビィ」
 光とともに現れたのは、ニュートラル・セレビィであった。

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