時計台が目印の港町、人はそこを“地図にない町”と呼ぶ。
実際は地図に描かれているのだが、その町がある大陸自体、未だ謎が多いのである。
今日もそこで、“動く名物”がサックスを吹いていた。
ホロリロホロリロ……
「どうだー! この見事なまでのプレイ!」
観光客と思しき人たちが拍手して、チップを入れていく。
「いやー、今日の皆さんの気前のいいこと! このまま、熱い演奏と甘いキスをくれるピアニストの女の子も見つかっちゃえばなぁー」
「ステラむかつくー」
「調子のんなよ!」
ステラというサックス吹きに、地元の住民が声をかける。
「お前のサックスへったくそー! ホラ吹いてるほうがお似合いだぞ!」
「オイラはホラだって吹けるぞぉ!」
罵りあうのも、彼らにとってはいつもの光景。
結局は地元の住民も、サックスのケースにチップを入れて去っていった。
「ロト、今日の演奏どうだった?」
ステラの相棒、コロトックのロトは、渋い表情になった。
「トーック……」
「その音、微妙ってこったな!」
ロトとステラは、物心ついた頃から一緒。
今のところ、ステラの手持ちポケモンはロトだけである。
食べる口が増えるからといって、ステラはあまりポケモンを捕まえたがらないのだ。
「……トトッ?」
「ん? どうしたロト? ……って、わー!!」
髪の毛を吹っ飛ばすような強い風が吹いて、ステラは空を仰いだ。
「ラッ……ラティオス!?」
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